インメモリデータベースからアプリケーション・プラットフォームに変身できるか
「SAPからのテクノロジーイノベーションを届けるのが、HANAです」と語るのは、SAPジャパン プラットフォーム事業本部 エバンジェリストの松舘 学氏だ。イノベーションを届けるためにSAPでは、HANAを1年に2回という速いペースで更新している。これはクラウド時代のソフトウェアでは珍しいことではない。とはいえ、従来の質実剛健で安定性を重視するエンタープライズ領域のアプリケーション・プラットフォームと捉えると、ちょっとペースが速すぎるかもしれない。
SAP HANAでは半年ごとにSPSという形で新機能を提供しているが、更新をサポートするのは最新バージョンから2つ前のSPSまでだ。製品としてのイノベーションは欲しいが、この速いペースに合わせてプラットフォームを更新するのは、正直、つらいと考える情報システム部門も多そうだ。こういった顧客企業も安心してHANAをアプリケーション・プラットフォームとして使ってもらう。そのために、2016年12月にSAP HANA 2を発表し、従来製品のHANA 1との2系統での製品提供を始めると発表した。
SAP HANA 1は最新版となるSPS12で新機能追加は終了する。一方でメンテナンス期間の制約にはとらわれず、長期間に亘ってアプリケーションの基盤として利用できるようにする。一方新たなSAP HANA 2は、これまで通り半年ごとのイノベーション追加をSPS00、SPS01という形で継続するのだ。つまりは、いち早くイノベーションを手に入れたければSAP HANA 2を、安定した基盤が欲しければSAP HANA 1を選べばいいのだ。
「今後は新しい技術、IoTやビッグデータなどトレンドとなりそうな機能はSAP HANA 2に入ってきます」(松館氏)
SAP HANA 1のSPS12は、ミッションクリティカルなアプリケーション向けの基盤として活用してもらう。SAP HANA 1からSAP HANA 2へはいつでも移行できる。SPS 10、11からは直接HANA 2へアップグレード可能だ。SAP HANA SPS12の「Capture & Replay機能」を使えば、アップグレードする前にSAP HANA 2を評価することもできる。SAP HANA 1は、今後3年間、2019年5月までサポートされる予定だ。
SAP HANA 2では、データベース管理、データ管理、分析インテリジェンス、アプリケーション開発の主に4つの点が強化された。HANA 1とHANA 2の2つの製品ラインをサポートするのは、かなり面倒な対応にも思える。しかしそうでもないのだと松館氏は言う。もともとERPのアプリケーションでは、旧バージョンを使う顧客もあり、HANAと同様に2系統での製品管理は、SAPでは十分に経験のあることだと説明する。HANA 2で見つかった不具合などがあれば、もちろんそれはHANA 1にも反映される。まったく異なる製品ラインが2本できるわけではなく、あくまでもHANA 2はHANA 1の延長線上にある製品と捉えればいいのだろう。
データベース管理の進化とデータ管理の進化
SAP HANA 2の進化ポイントのうちの1つであるデータベース管理の進化では、新たにシステムレプリケーション機能で読み取り可能なアクティブ/アクティブ構成がとれるようになった。システムレプリケーション機能では、ログをセカンダリデータベースに送ってデータベースを複製し、災害時などに切り替えて利用する。HANA 2からは、セカンダリをアクティブにできるので、参照系の処理がセカンダリで行える。同期パターンは同期、非同期、メモリ同期を選択できる。
他にもデータベース管理としては、バックアップとリカバリー、データの暗号化、ユーザーおよびロールの管理なども強化されている。さらにCapture and Replay、Workload Analyzer、SQL Analyzer機能も加えられ、データベースの変更時などにワークロードのシミュレーション分析の手間とコストの削減が可能となっている。
HANA 2のデータ管理の進化としては、階層ストレージダイナミックティアリングがある。HANAは基本的にすべてのデータをメモリに載せて運用するので、「ペタバイト規模のデータベースは、現実的ではありませんでした」と松館氏。メモリ容量を超えるデータを扱えるようにするために、これまでもデータの階層管理の機能を持ってはいたが「HANAのインメモリのテーブルとストレージに置くテーブルは内部的には別のものでした」とのこと。HANA 2からは1つのテーブルとして管理できるようになり、テーブルの下のパーティションとしてメモリとストレージを分けられるようになった。
この他にも差分バックアップに対応し、REDOログの暗号化も行えるようになった。これらの進化により「今までデータベース機能比較の○×表などで、HANAでは×がついて項目のほとんどが○となります」と松館氏。これは提案時にももちろん有効だが、実際の運用の立場からもかなり管理面が楽になる機能だと言う。