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クラウドコンテンツ管理プラットフォームのセキュリティを強化するShieldがBoxの日本のビジネスを拡大する


 先日米国で開催されたBox Works 2019では、Boxは単なるクラウドストレージベンダーから脱し、エンタープライズなクラウドコンテンツプラットフォームのプロバイダーになるとの話があった。そのためにセキュリティの強化、クラウドでのコンテンツ管理の加速、そしてベストオブブリード・パートナーとの連携の強化という3つのメッセージが発信された。日本市場ではこれらにどのように取り組むのか。株式会社ボックス・ジャパン 代表取締役社長の古市克典氏に話を訊いた。

グローバルのBoxビジネスの中で存在感を示し始めた日本

株式会社ボックス・ジャパン 代表取締役社長の古市克典氏

株式会社ボックス・ジャパン 代表取締役社長の古市克典氏

Q:今回のBox Worksを振り返って、どのようなことを伝えるカンファレンスだったのでしょうか。

古市氏:全く新しいことをやると言うのではなく、Boxが今までやっていたことをさらに1歩進めるものでした。力を入れてメッセージしていたのは3つで、セキュリティ、コンテンツ活用を推進するためのCloud Contents Management(CCM)、それとベストオブブリード・パートナーとのAPI連携です。1つ目のセキュリティは新しく提供しているBox Shieldで、2つ目のCCMはBoxの中でワークフローを実現するBox Relayです。そしてベストオブブリード・パートナーとの連携ではAdobeとの協業を発表しました。

 Boxではこれまで、SlackやZoom、Oktaなどシリコンバレーの先進企業のソリューションと連携を加速してきました。その他にもMicrosoft Office 365、Salesforce.com、Google G Suiteなどとも協業しています。とはいえレガシー系は少なかったのですが、先日はOracleとの連携も発表し今回はAdobeです。企業が普段使いしているものをどんどん取り入れて連携していきます。Microsoft Teamsもその1つです。MicrosoftはサービスプラットフォームとしてTeamsに力を入れています。Teamsも企業のメジャーサービスの1つとして位置づけて連携を強化しています。

 今回のイベントには、Slack、Zoom、Okta、さらにはIBMのCEOが登壇してBoxと一緒にやっていくことをメッセージしています。1社で全てやるのではなく、それぞれの分野のトップとベストオブブリードでいかに上手く連携していくか。Boxはそのときのコンテンツプラットフォームとして支えていきます。

Q:今回のBox Worksは、これまでのものとどのような違いがありましたか。

古市氏:昨年くらいから、徐々に雰囲気が変わっています。日本からの参加者も増え今回は140名ほど、昨年が120名くらいでした。この規模で日本からくると米国本社の印象も変わります。日本市場に対する見方を変えられるのです。日本からもBoxに対する要望が出るようになりました。最終日に日本の参加者向けのセッションを行いましたが、そこには本社の製品責任者であるジーツー・パテルも参加し、日本からの質問に直接答えていました。他にもそれぞれの分野の開発責任者が来て、日本からの要望を聞いています。日本の参加者もこれまではシャイでしたが、今回は積極的に質問するようになっています。

Q:今回のメッセージを受けて、日本ではどのような戦略を進めるのでしょうか。

古市氏:3つの流れを加速する、それがベースとしてあります。SaaSの使いこなし方が米国などと比べて日本企業はまだ発展途上なところがあります。米国では複数のSaaSを組み合わせて使いこなすの当たり前になっており、それで生産性を上げています。日本では複数を使いこなせずにSuite系でという選択肢をとることも多い。それでも一度は複数のSaaSを使うのにチャレンジしてもらいたい。ハードルは高いかもしれませんが、Boxではそれをサポートしていきます。日本のSlack、Zoom、Salesforce、Microsoftとは、既に日本で連携しています。こういったことをさらに加速していきます。

日本なりのアプローチでSaaSのベストオブブリードを推進する

Q:SaaSのベストオブブリードの取り組みは、日本と米国では温度差があるのではないでしょうか。米国のメッセージそのままでは、日本市場では上手く伝わらないのではないでしょうか。

古市氏:確かに違うところもありますが、日本にも感度の良い企業はあります。そういったところと、まずは一緒にベストオブブリードを進めます。そのための1つの施策でBoxコミュニティを作っています。Boxコミュニティは2つあり、1つは既にBoxを使っている「Boxer」の集まりです。

 もう1つ、Boxをまだ使っていない人も含んだ広範囲の人を対象にしたBoxコミュニティで、これはAWSのJAWSのようなものになります。ここには感度の良い人もいます。まだ使っていないけどBoxに興味がある技術に造詣の深い人たちがいるのです。まずはそういった人たちとベストオブブリードを進めて、実際の事例などでもーメンタムを作っていきます。それを起爆剤にしていきたいと考えています。

Q:Zoomなどは日本でも最近注目されていますが、日本独自のSaaSとの連携にはどのように取り組むのでしょうか。

古市氏:日本ではサイボウズのkintoneとは初期の頃から連携しています。他にもデジタルアーツのFinalCodeやほとんどのコピー複合機のソリューションとも連携しています。米国では複合機との連携はありませんが、日本にはニーズがあります。他にはクラウドサインやシャチハタとも連携しています。日本のベンダーともどんどん連携して日本独特のニーズに対応しています。

 Boxとしては、本来はBoxのスタンダードなサービスをできるだけ使ってもらう。それがSaaSのメリットであり安いコストでサービスを提供できることにもなります。とはいえ日本にはカスタマイズのニーズもあり、そういった要望の一部はBoxの標準機能に取り込むこともあります。たとえばIPアドレス制限のオプション機能もその1つです。当初、会社などからしか接続で着ないようにするIPアドレス制限は、オープン性を大切にしてどこからでも繋げるのがBoxの価値だと、米国本社からは理解されませんでした。とはいえ日本ではそういうニーズがあることを理解してもらい、オプション機能としてBox本体に取り込まれました。とはいえ、シャチハタとの連携でBoxのドキュメントに印影が押せるといったものは日本にしかない要望です。そういった日本独自のニーズに応えるために既に150くらいの日本企業との連携サービスがあります。

 一定規模のニーズがなければ、スタンダード機能には取り込まれません。グローバルなニーズは少なくても日本では十分なニーズがあればパートナーは連携してくれます。それに対してBoxでは使いやすいAPIを公開し、技術情報も提供しています。それだけで、パートナー企業は連携機能を構築できてしまうのです。連携機能のサポートもパートナーが行っています。

 Boxとしてはスタンダード機能をシンプルに使ってもらいたい、そのための使い方を伝えてSaaSになじんでもらいたい。とはいえ日本の多くの企業がスタートを切ってもらうには、日本独自の機能を追加してそのための第一歩を切りやすくする必要があります。

Q:多くの連携機能がパートナーが自分たちで取り組んで実現しているとのことですが、一方でSlackやAdobeなどとの連携は両社の開発部隊が密に協業しているものだと思います。そういった取り組みを日本でも考えていますか。

古市氏:Slack、Adobe、OracleやMicrosoft、IBMなどとの連携はかなりがっちりと開発チームが連携して実現しており、協業の深さが違うものです。同様なことは日本でもやりたいと思っています。しかしながら、日本初でグローバル規模のサービスが少ないの現状です。そういったところが出てくれば、密な連携はしていきたいと思っています。日本市場だけのサービスだと、なかなかリソースを投入して一緒にやることはできないのが現状です。

 現状のSaaSのサービスはシリコンバレーと中国が強い。SaaSの第一ラウンドは彼らの勝ちでしょう。とはいえ第一ラウンドはBtoCがメインです。これからやって来る第二ラウンドは、BtoBが中心になる。IoTやAIとの連携、産業分野との連携が第二ラウンドで、ここは日本も最有力候補でヨーロッパなども出てくるのではと思っています。結果的にSaaS市場が日本で活性化すれば、自ずとBoxのビジネスも伸びていくことになるでしょう。

Q:日本でのパートナーとの取り組みは、今後どのようになっていきますか。

古市氏:チャネルパートナーのビジネスは、SaaSのベンダーの中ではBoxの特長の1つです。SalesforceやWorkdayなどは直販が中心ですが、Boxは90%以上のビジネスがチャネルパートナー経由です。販売してからの顧客との繋がりが大事なSaaSのビジネスなので、ここにはチャレンジもあります。

 Boxと一緒にビジネスをすることで、日本のSIerがSaaSの価値を顧客企業に伝える経験値を積んでいます。また既に150の連携サービスがあり、そこではSaaSの周りで開発する経験値も積んでいます。理想としてはBoxが真ん中にあり、Boxの周りにチャネルパートナー、開発パートナーがいてノウハウが溜まり、その体制で”SaaS Business in Japan”が花開く。それにBoxは貢献できると考えています。

次のページ
Box Shieldが日本の金融、公共のビジネスの追い風となる

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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