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IFRSをめぐる我が国の動きと企業グループに与える影響~マネジメントが知っておくべきこと

  2010/02/05 07:00

IFRSが企業グループ経営に及ぼす影響

 IFRSの採用が日本企業に及ぼす重要な影響は次の6つに集約できる。

① 会計基準間の相違の解消に伴う決算数値の変化

 日本基準とIFRSの相違から、IFRSの採用によって従来の会計処理の方法を変更せざるを得ない場合に、決算数値が変わる。収益の計上時期、収益の総額・純額表示、有形固定資産の減価償却、退職給付会計、研究開発費の会計、のれんの償却、連結対象子会社の範囲等、現行の日本基準(会計慣行を含む)とIFRSとの間には依然として重要な相違が残されている領域がある。

 したがって、これらの領域において従来の会計処理を変更する必要が生じ、決算数値に重要な変化が生じる可能性が出てくるだろう。「会計処理の変更が一度にいくつも行われるかもしれない」と考えると、影響の大きさがイメージできるのではないだろうか。

② 財務諸表の様式等の変更に伴う決算財務報告プロセスの変更

 すでに述べた通り、IFRSにおける財務諸表の様式及び注記内容は、現行の日本基準と相違しているため、IFRSを採用した場合には、連結グループにおける勘定科目体系、連結財務諸表の様式、連結財務諸表作成に必要な情報の収集体制について変更する必要が生じる。以下に述べる通り、将来、IFRSが財務諸表の表示に関してマネジメント・アプローチを採用した場合には、影響はさらに大きくなるものと思われる。

③ マネジメント・アプローチの導入に伴う業績管理・財務報告体制の変更

 マネジメント・アプローチの導入に伴い、従来の業績管理ユニットの変更あるいは業績管理ユニットにおける財務報告体制の整備等が必要になるかもしれない。

 我が国においても、セグメント情報の開示に関してマネジメント・アプローチが導入されることが決まっているが、現在IASBにおいて進められている財務諸表の表示の改訂プロジェクトにおいては、財務諸表の表示そのものにマネジメント・アプローチを導入する方向で議論が進められている。

 そうすると、外部公表の対象となる業績管理ユニットの変更あるいは業績管理ユニットごとに損益および資産・負債をきちんと管理できる財務報告体制の整備が必要になるかもしれない。

④ 利益概念・決算数値の変化に伴う業績評価指標の変更

 包括利益概念や①で述べた決算数値の変化に伴い、従来の業績評価指標を変更する必要が生じるかもしれない。たとえば、従来契約額の総額で表示していた売上高を、売上原価と相殺後の純額で表示しなければならない場合には、売上高を業績評価の指標としていた企業は、指標の修正が必要になるだろう。

⑤ 会計処理・決算期等の統一の必要性から生じる連結グループ内の連携強化

 IFRSの採用によって、従来の日本基準下における連結決算体制下よりも、連結グループ会社間における方針の統一、決算期の統一、業務処理プロセス・情報システム基盤の統一を強化する必要が生じるだろう。

⑥ 公正価値評価対象の拡大に伴う公正価値測定コストの増加

 IFRSにおいては、現行の日本基準に比して、金融商品を中心として公正価値(いわゆる時価)によって評価する対象が拡大する。このため、保有する非上場株式の公正価値評価が必要となる等、企業にとって保有資産等の公正価値を測定する業務が増加する可能性がある。

 以上のような影響を総合して考えると、多くの企業、特に、事業規模が大きく連結子会社を数多く有する企業や複数の事業を営む企業にとって、IFRSの採用は単なる経理の問題ではなく、企業グループ経営に大きな影響を及ぼすものと考えられる。


著者プロフィール

  • 手塚 正彦(テヅカ マサヒコ)

    1985年、東京大学経済学部卒業。1986年、監査法人中央会計事務所入所後、2005年10月より中央青山監査法人理事、2006年5月より同理事長代行を歴任。2007年10月に監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)入社、パートナー就任、経営会議メンバー、2008年4月より東日本ブロックIFRSプロジェクトリーダーを経て2009年1月より現職。

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