2023年11月8日、プライバシーテック協会は「事業者によるプライバシーテックの利活用」をテーマにイベントを開催した。同協会によるイベント開催は2回目。
冒頭に協会理事を務めるEAGLYS 代表取締役の今林広樹氏が「2022年8月に協会を設立しており、社会的にニーズが高まる中、プライバシーテックを啓発していき、数少ない事例を共有していくことで認知拡大につなげていく。また、関連する現行法を見つめなおし、ルールメイキングを推進していくことで社会実装も進めていきたい」と挨拶。続くメインセッションへと水を向けた。メインセッションでは「博報堂DYグループ・LINEヤフーが考える、プライバシーテックの価値と実用に向けた課題」と題して、パネルディスカッション形式で意見交換がなされた。
はじめに、博報堂DYホールディングスの西村啓太氏が登壇。「より良い広告を作るために必要とされるデータやテクノロジーを調達・研究することで事業につなげる、橋渡しのような役割を担っている」と切り出した上で、データプライバシーの重要性が増してきているとして、同社による取り組みについて説明を始めた。
自社データだけでは高い精度でアプローチできないという声がクライアントから聞こえてくる中、博報堂DYグループは特許技術を用いながら“安全にデータを連携させる”取り組みを推進しているという。たとえば、クライアント企業の購買データにないものを統計データ化し、分析するなどして独自の「ショッパークラスター」を導き出したときには高い精度で事業利用できた一方、実現の難易度が高いことなどから、秘密計算などのプライバシーテックの利用に至ったと話す。
実際にAcompanyと秘密計算を用いた実証実験を行っており、処理内容や個人情報保護法上の解釈として法的に問題がなく、データ結合の精度も100%であることを確認できたという。今後は、会員情報や決済データ、POSデータを統合して分析するなどのユースケースが想定できるとして「プライバシーテックのノウハウがあるからこそ個社だけで扱えないデータを紐づけられ、マーケティングの高度化をより加速できる」と述べた。
次に登壇したのはLINEヤフー 竹之内隆夫氏。「プライバシーは経営戦略の一部となっている」といい、プライバシーテックの導入だけでなく、いろいろな要素を組み合わせていくことの重要性を語り始めた。
たとえば、GDPRのプライバシー原則を参照しても“プライバシー保護を行っている”と示すことが欠かせないと指摘。同社では、差分プライバシーと連合学習を組み合わせた「スタンプの自動推薦」に取り組んでおり、2023年9月には技術詳細をホワイトペーパーとして公開している。こうしたプライバシーテックに係わる技術詳細の公開はAppleやGoogleなども行っているとして「(プライバシーテックに)“取り組んでいる”ということを対外的に示すことも重要」と竹之内氏は語った。
続いて、ファシリテーターを務めるAcompany 高橋亮祐氏が「プライバシーテックの実用観点における現在地は」と投げかけると、西村氏と竹之内氏を含めた3名によるトークセッションを展開。同セッションでは参加者の質問にも応えながら赤裸々に現状が語られるなど、課題提起と現状認識が共有された。
その後、参加者の中から2名がライトニングトークを繰り広げるとイベントは閉幕した。なお、プライバシーテック協会では2ヵ月に1度リアルイベントとして「プライバシーテック協会 勉強会」を開催しており、次回開催も同協会ホームページなどで呼びかけられるとのことだ。