2024年11月13日、Dropboxのドリュー・ハウストン(Drew Houston)CEOが来日し、先ごろ発表されたAI搭載のユニバーサル検索ツール「Dropbox Dash for Business」や、今後の展開について語った。
Dropboxはオンラインストレージサービスとして知られているが、近年はAI技術を活用した新しいサービス展開を加速させている。今回発表された「Dropbox Dash for Business」(以下、Dash)は、DropboxだけでなくGoogleドライブやNotion、OneDriveなど、企業内で利用される様々なクラウドサービス上のファイルや情報を一括で検索できる機能を提供する。
これまでコンシューマー向けにはDropboxだけでなくGoogle DriveやOneDriveなど、多くのクラウドストレージサービスが選択肢として存在してきた。しかし、多くの企業ではクラウドストレージ利用に慎重にならざるを得なかった。従業員が多様なストレージサービスを使用すると情報漏洩リスクやコンプライアンス上の懸念が生じるほか、各アプリケーションごとにコンテンツ共有や更新権限管理が必要になるからだ。
Dashは、このような問題解決を目指している。「単なるオンラインストレージサービスではなく、他社製品とも連携できるユニバーサル検索ツールとして機能する」とハウストン氏。
Dropboxは単なるクラウドストレージ会社から脱却し、情報管理やセキュリティ機能も提供する企業へと進化させるというのが、ハウストンCEOの目的だ。
その背景には、現在のDropboxの経営環境がある。2024年10月30日、Dropboxは従業員約20%(528人)の削減を発表した。ハウストンCEOはこれについて「移行期」にあることを強調する。その移行において重要な役割を果たす切り札が「Dropbox Dash」というわけだ。
「Dropboxはこれまで情報の保存のためのサービスだったが、今では情報整理と安全管理に注力する企業へシフトしている。それは、Netflixがレンタルビデオからインターネット動画配信へ転換したようなものだ。そしてそこにはAI技術も加わり、知的財産保護やガバナンス機能も強化されていく」とハウストンCEOは語る。
DashのAI機能は現在、MetaのオープンソースAIモデル「Llama」を活用し、それに独自機能を追加している。特に著作権および知的財産保護について重視しており、「各種ストレージ内の情報が生成AIモデル訓練に利用されることはない」と強調している。
Dashのこうした用途は中堅・中小企業のAI導入を加速させる可能性も秘めている。多くの企業ではRAG(Retrieval-Augmented Generation)技術導入が進んでいる。自社データの活用、機密情報漏洩リスクも軽減される。ただし、このRAGシステム構築には高額な開発コストがかかり、中堅・中小規模企業には導入ハードルが高い。ハウストンCEOは、「Dashは中堅・中小規模企業でも利用できるソリューションだ。企業は自社のAI環境の構築に数百万ドルものコストをかける必要がなくなる」と強調した。
現在、「Dropbox Dash for Business」は米国市場で提供されている。しかし今回ハウストンCEOが日本を訪れた理由には、日本市場への展開準備も含まれている。同氏によれば、日本市場での提供開始は2025年半ばごろになる予定で、日本企業ユーザーとの交渉も進めているという。