稼働監視だけでなく、売上げやブランド価値の向上をめざして
稲田氏によると、日本においてビッグデータやIoT活用に積極的な企業は少数派で、多くはコストに見合う短期的なリターンが見込めないとして消極的だという。同氏は「そうした判断は一見合理的に見えるがリスクを考えていない」と指摘する。
近年では競争力や価値の源泉が変化してきており、時代に合わせてビジネスを変えていく必要があるためだ。CDは音楽配信に変わり、タクシーはUberやLyftに変わりつつある国が増えているいま、時代に乗り遅れることは大きなリスクである。
IoT時代の考え方として参考になるのが、ハーバード大学のマイケル E. ポーター氏の競争戦略だ。製品やサービスをネットワークに接続し、データを収集・活用することで価値が生まれるというもの。最初は製品やサービスの状態をモニタリングするところからはじまり、次第に運用制御や最適化へと高度化していき、自動運用や自動連携などへと進んでいく。
例えば産業用ポンプ。保守費用の低減や突発事故を防ぐための対応策として稼働監視が行われている。流水量や水質、機器の状態などのポンプ関連データに加え、外気温度や湿度などの環境データも合わせて収集し、蓄積したデータを分析することで、保守の時期やその時に必要な部品を事前に予測できるようになった。保守周期を最適化することで費用低減、それからポンプの最適な運用制御にもつながっているという。
浄水器の稼働管理の例も興味深い。流量センサーをつけてデータを収集しクラウド上で管理を行い、ユーザーのスマホにフィルターの交換時期を通知している。これによって、交換フィルターの売上が増加している。こうした稼働データの分析で、たとえば浄水器の水は飲用だけでなく洗顔にも使われているなど想定外の用途が判明すれば、浄水器のマーケティングも変わるだろう。
その他にも、顧客に気づきを与えて交換フィルターの売上増加につなげるだけではなく、ジレットの「替え刃モデル」(本体を安くして替え刃で儲けるビジネスモデル)の採用が可能になると稲田氏は指摘する。加えて浄水器を販売した後でも顧客とつながりを持つことで、ブランドイメージ向上やビジネス機会の増大などにつなげることができる。IoT活用の価値は稼働管理に限定されるものではなく、売上げやブランド価値の向上などビジネスの進め方にも大きな影響を与える可能性がある。