今回は、技術を経営資源として戦略的に活用する経営スタイルを指す「MOT」と、その視点を持ったUISSが登場した背景、ITSSとの違い、および人材育成におけるスキル標準導入の考え方について解説します。
UISSとMOT
第2回ではITSSについて説明しました。ITSSの利活用においては、経営戦略をベースにおいた人材戦略や育成計画を検討することが重要であるとされています。その「経営とIT」について、双方の関係を最もうまく表現でき、注目度も高いものとして、「MOT(Management Of Technology:技術経営)」が有名です。
今回はMOTと、もう一つのエンタープライズ向けスキル標準である「UISS(情報システムユーザースキル標準)」について説明します。
MOTとは
まず初めに、簡単に「MOT」について触れておきます。
「MOT」とは「Management Of Technology」の略で、技術を経営資源として戦略的に活用するために、「Technology」と「Management」の双方に精通した経営者による経営スタイルを指します。
1940年代にマサチューセッツ工科大学(MIT)で「MOT」コースが生まれたことが原点です。本格化したのは、1960年にNASA(米航空宇宙局)がアポロ宇宙計画関連の技術マネジメント研究のために、MITの「MOT」リサーチに予算を計上し、「MOT」の研究が始まってからです。
その後、1990年代に米国の産業競争力が再生した背景には、「MOT」を主眼とした人材育成があったからだと言われています。
日本では、90年代後半からのアジア諸国の脅威によって注目され始め、2003年以降企業と大学が連携して「MOT」人材の育成に向けて様々な取り組みが始まっているようです。
企業経営にIT戦略を最大限活用するためには、核となる技術をベースとして新たなビジネスを創造できる人材の育成、技術と経営の双方を理解し、事業として技術価値を最大化できる人材の育成が必要です。
今日、確固たる位置の多くの企業は、技術者のトップの方が努力して、築いて来られたケースが多いと思います。私見ですが、今、そのような企業がアジアを含めた競合他社に抜き去られて、なかなか浮かび上がれない状況が目立っているように思います。そういった企業トップの(だった)方は、技術者出身ではない場合が目に付きます。それが全ての原因ではないと思いますが、技術の進歩が著しい現状を考えると、技術的な視点で経営判断をするかしないかは、今後の激しい競争の中では、かなりのインパクトがあると考えられます。
この記事は参考になりましたか?
- IT人材育成の危機を超えて~ITSS/UISSスキル標準への手引き連載記事一覧
- この記事の著者
-
高橋 秀典(タカハシ ヒデノリ)
株式会社スキルスタンダード研究所 代表取締役。1993年日本オラクル入社。研修ビジネス責任者としてオラクルマスター制度を確立させ、システム・エンジニア統括・執行役員を経て2003年12月にITSSユーザー協会を設立。翌年7月にITSSやUISSを企業で活用するためのコンサルティングサービスを提供するスキルスタンダード研究所を設立。ファイザー、リクルート、アフラック、プロミス、ヤンセンファーマなどのコンサルティングの成功で有名。ITSSやUISS策定などIT人材育成関係の委員会委員を歴任し、2006年5月にIPA賞人材育成部門受...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア