IT投資に対する評価の実態について
はじめに、世の中の多くの組織でIT投資の実態はどうなっているか見てみましょう。2007年の資料になりますが、経済産業省の委託を受けて日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が取りまとめた資料をひもときながら解説します。
資料によると、IT投資に対する事前評価(実施前の投資案件について、投資実行の可否を判断するフェーズ)を「実施している」「一部実施している」と回答した企業は61%。事後評価(実施後の投資案件について、効果を測定するフェーズ)については53%で、全体として十分に事前/事後評価ができていない実態が見えてきます。このような状況が続くと、IT投資の効果が見えにくいことから経営層は投資を躊躇してしまいます。さらに、対策を講じなければ情報システム部門の活動に対する経営層からの理解も次第に得にくくなっていくと考えられます。
効果測定が困難である理由
IT投資の効果測定が必要だと理解していても、効果測定が困難でなかなか実行に移せないという方も多いのではないでしょうか。効果測定が困難である理由は様々です。特に、定量的に効果を表すことが難しいといわれています。
例えば「商品在庫の30%を削減する」という経営戦略があり、そのために、「在庫管理システムの再構築」を案件として立案します。「システムの再構築」はITに関する内容ですが、経営戦略にある「商品在庫を削減する」となると、設備の見直しや、在庫管理要因の増大、さらには新システムを使用するための人員の教育など、IT投資以外のその他の投資項目も含まれます。そのため、IT投資の部分だけを切り出して算出することが難しくなり、効果測定は困難になります。
IT投資の効果測定を有効的に進めていくためには
では、IT投資の効果測定はどのように進めていけばよいでしょうか。事前評価と事後評価にわけて、進め方のポイントを紹介していきます。
事前評価のポイント
1.そもそも何のためのIT投資か、目的を明確にする
まず、経営戦略に基づいた投資目的を明確にすることが、IT投資の効果測定を行う第一歩です。投資目的が明確になっていないまま投資を実行すると、どのような効果があったか測定することができません。また、目的と合致しない要望を受け入れることで、開発コストが膨らみ、結果として、投資効果が低下するといった不利益を招く場合があります。
2.定性を定量へ。BSCを活用してKPIを導き出す
IT投資の効果測定に関わらず、定量的なデータは納得性の高い評価を示すことができます。IT投資効果の定量化については、可能な限り金額換算することが重要です。しかし、「顧客満足度を向上する」「新製品の機能や品質を向上する」のように金額換算(定量化)が難しい案件もあります。そのような場合は、バランススコアカードを活用したKPI(主要業績評価指標)の設定が有効です。
バランススコアカード(以下BSC)とは、経営戦略を4つの視点(「財務」・「顧客」・「業務プロセス」・「学習と成長」)にわけて、経営管理できるようにした手法です。それぞれに重要成功要因(CSF)、戦略目標、業績評価指標、などを設定し、実行し、結果を検証します。例えば、顧客の視点からKPIを設定した内容を下図で紹介します。
KPIを導き出せば、金額換算できずとも定量的なデータを表すことができます。このように金額換算できないものは、BSCを活用しKPIを導くことで、定性的なデータを可能なかぎり定量的に表すことがポイントになります。
3.リスクの洗い出しとその対応策について検討する
通常業務において、予期せぬ事態などにより、想定どおりに物事が進められていない状況はご経験があるのではないでしょうか。IT投資についても、計画通りに進めていても、思ったとおりに効果が得られないことはあります。そのため、想定どおりの効果が得られていない場合の対処方法を、事前に検討しておく必要があります。ポイントは、いつまでに、どのような対策をとるか、明確にしておくことです。案件を進める上でリスクも洗い出し、リスクに対してどう進めていくか明確にすることで、予期せぬ事態にも素早く対応できることを経営層に示しましょう。