どのような業界のビジネスもこれからはAIが牽引する
小売り、医療、金融など全ての業種、業態においてコンピューティングによる変革が始まっている。「あらゆるものに、コンピュータが埋め込まれつつある」と語ったのは、技術者および意思決定者を対象としたイベント「Microsoft Tech Summit 2018」の基調講演に登場したナデラ氏だ。
「地球上の全ての個人と組織がより多くのことを達成できるようにする」―マイクロソフトではこれを目的に活動しており、そのためにテクノロジーをどう活用すべきかの提案を行っている。テクノロジーのためのテクノロジーではなく、マイクロソフトの顧客やパートナーが価値を生み出すためのテクノロジーだ。
マイクロソフトには既にさまざまな技術要素があり、それらを適宜組み合わせることで迅速に成果を出せるようにしている。そのためのプラットフォームが、Azureだ。Azureは既に世界54のリージョンに複数データセンターで展開、ネットワークは月までの距離を3往復する長さに達する。莫大な投資をしており、日本の東京、大阪のデータセンターについても、今後その容量を2倍に拡張することを明らかにした。
ナデラ氏がもう1つ強調したのが、Azureプラットフォームのエッジへの拡大だ。そのためにAzure Stackを提供し、さらに細かいレベルの対応にAzure IoTやマイクロコントローラーとなるAzure Sphereも提供する。
Azureのプラットフォーム上で利用する技術で鍵となるのがAIだ。どのようなアプリケーションも、どのような業界のビジネスもこれからはAIが牽引する。「そのためにマイクロソフトではAIに大きな投資をしている」とナデラ氏。投資の成果として2016年には物体認識を実現し、2018年には機械による読解、翻訳も実現した。既にこれらは、人と同等かそれ以上のものになっている。とはいえAI技術の進化は、技術追求のためではない。マイクロソフトではAIの民主化を目指しており、全ての組織がAIを活用できるようにしている。
「AIはみなさんのアプリケーションの一部となります。みなさんのアプリケーションの構成要素の1つなのです」(ナデラ氏)
ナデラ氏がもう1つ触れたのが、Adobe、SAPとのパートナーシップ「Open Data Initiative」だ。これにより、顧客に関するデータを、それぞれが提供するアプリケーションで共有しやすくする。この協業の本質は、ベンダーが提供するアプリケーションにロックされていた顧客データを解放するもの。その上で顧客にコントロールを与える。結果的にユーザー自身が、自分のデータを自ら管理できるようになるという。
新たな技術で変革している日本企業の事例も紹介された。建設機器メーカーのコマツ、旅行業の事例としてはJTB、ナビタイム、マイクロソフトの協業で実現した外国人向け観光アプリケーションが示された。他にもトヨタ、JR東日本、ニトリと多くの日本企業の取り組みに触れ、マイクロソフトのサポートのもとに日本でもデジタル変革が進められていることを強調した。
最後にこのデジタル変革を進める上で、プライバシーを守りあらゆるものに対し透明性を持つことが重要だと指摘し、AIの倫理についても言及した。
「全ての製品を作る際に、これからはAIが入ってくる。その時にコンピュータで何ができるかではなく、何をすべきかを考える必要がある。そのための設計原則が必要であり、そこには人を介在させなければならない。利用者に対する説明責任も必要で、そのためのツールも構築している。またマイクロソフトでは倫理委員会を設けており、そこにはさまざまな人が参加しAI利用における倫理を検討している」(ナデラ氏)