「個人の意志」にもとづくデータ流通・活用の世界へ
個人がデータを自らの意志で管理し、同意のもとでパーソナルデータを企業間での流通を可能にし、様々なサービスを提供する「情報銀行」に向けた取り組みが、ここ数年進められている。
NTTデータは、公共や金融分野でのセキュアな情報流通の実績やノウハウを活かし、この分野での事業化をめざすことを目的に、情報銀行のプラットフォームに関する実証プロジェクトを2019年の2月におこなった。
プロジェクトの発表に際し、NTTデータの情報銀行ビジネスの取り組みを、金融事業推進部の花谷昌弘氏が紹介した。
長く銀行など金融事業の分野に携わってきたという花谷氏は、「銀行がお金という“産業の血”を流通させてきたように、情報銀行はデータという“産業の知”を流通させることで価値の創発を支援する」と述べる。
花谷氏によれば、個人情報がCRMなどにより企業中心に活用される時代から、「個」を中心とした活用の時代にシフトするという。現在では「B2CからMe2B」(花谷氏)という大きな世界観の変化が起きており、ヨーロッパのGDPR施行や米国のGAFAや、中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)などの動きもこうした流れの背景にあるという。
さらに花谷氏は、従来のマーケティングが、各企業ごとの顧客情報に基づきばらばらに行われていたため、実際のユーザではなく「推計上のユーザ」としてプロファイルされるため、たとえば家族のために購入したものが購買履歴に含まれ、見当はずれの広告が表示されてしまうことなどを指摘した。
NTTデータは、こうした企業と個人間のギャップの課題を解決するため、各ベンダーやサービス事業者のデータを統合的にユーザーが管理する「Enhanced CRM」を進めてきた。こうした取り組みが情報銀行の「PDS(Personal Data Store)」のコンセプトにつながるという。
現在の情報銀行の課題
花谷氏は、情報銀行ビジネスが成立するために克服するべき課題として、1)データ保有企業がデータを提供するインセンティブ、2)個人または情報銀行が、パーソナルデータを引き出すための技術、3)個人がパーソナルデータを提供したくなるようなデータ活用サービス、の3点をあげる。
たとえば、「お金のインセンティブ」で個人がデータを提供するというストーリーはありうるものの、それではポイントと変わらず、「個人が500円で売りたいが企業は数十円で買いたいなどのミスマッチ」(花谷氏)が起こる。
自分のビジネスに役立つ、あるいは社会貢献、地域貢献などの「わたしにぴったりのサービス」や新しい世界観、価値観を考えていく必要がある。パーソナルデータ流通は個人の信用を流通させること」で、その仕組を考える必要があるという。
情報銀行のプラットフォーマーとしてはレガシー企業が信頼大
続いて、社会基盤ソリューション事業本部の江島正康氏が、情報銀行のプラットフォーム実証の具体的な結果を報告した。
今回は716名の個人モニターを対象に、2019年の2月18日〜3月26日の間で、実際のパーソナルデータを用い、操作検証をおこないアンケートが実施された。
その内容は、モニター参加者に氏名、住所、生年月日、性別などを仮想パーソナルデータストア(PDS)にWeb登録させ、連携する事業者へのデータ活用への同意までの流れを体験するというもの。
デモでは、ユーザーが引っ越しをおこない、転居情報が、住所登録から公共支払いや金融機関まで複数のサービスに連携する様子が紹介された。異なるサービスや事業者に、個人情報が移動すると、それぞれの段階で同意と本人認証をおこなうというもの。
参加者へのアンケートの結果としては、かなりの割合の人が目的やメリットを理解し、一定の利用ニーズがあり、本人同意も内容を理解して同意をしている割合が多いという結果が得られた。事業者へのデータ提供の許諾については、詳細な同意を求める割合と包括的な同意を求める割合がほぼ同程度存在し、また情報銀行の仕組みを運営するプラットフォーマーとしては、金融やインフラ企業などの伝統的な企業への信頼が大きく、ベンチャーやIT企業への信頼は低かったという。
また提携先からの情報漏えいを危惧する声もある一方、利用料については無料をイメージする割合が多く、情報提供について得られる金銭的な対価の面ではミスマッチが生じている。
「今回の実証を通して、データポータビリティや連携先事業者の拡大、認証の手段、変更や削除要望への対応などの課題も鮮明化した。」(江島氏)
今後は、2019年度内をめどにこのプラットフォームの実用化をめざすという。
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