経産省のDXレポートが訴えるもの
経済産業省が昨年発表した「DXレポート」が話題になりました。このレポートでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)取り組みの重要性に言及し、もしDXが進まなければ、「2025年には最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」という深刻な未来が警告されていたからです。そして、その背景にある日本企業の問題として、ITシステムやデータが部門や組織ごとに分断化、サイロ化していて、これがイノベーションや新しいビジネスモデル創出の足枷となっているという問題が指摘されていました。
この問題と同時に、2025年のタイミングで、SAP社の主力ERP製品「SAP ERP」の保守期限切れがあります。「SAP ERP」は、大企業向けERP製品として全世界で40,000社以上、国内でも2,000社以上が導入しているトップERP製品です。これが保守期限切れとなる理由は、2015年にリリースされたSAPの次期主力製品「SAP S/4HANA」へ移行することによるものです。
とはいえ、1ベンダー企業の製品にすぎないSAPの製品の、しかもまだ5年以上先の保守期限切れが、なぜそこまで大きく取り沙汰されるのでしょうか?
冒頭の「DXレポート」にも絡んで、日本企業の競争力低下の原因のひとつが、企業の基幹系システム老朽化に起因していることが、大きな理由です。「DXレポート」や「SAP ERPの保守期限切れ」、これにつながる「日本企業の競争力低下」が、2025年をターニングポイントとして顕在化すること──これらを総称したものが『2025年問題』という言葉の意味といえるでしょう。本稿では、この問題を掘り下げていきたいと考えます。
DXの実現を阻む5つの課題
「DXレポート」(サマリー)では、DXを実行する上での現状と課題として既存システムのブラックボックス状態を解消できない場合、次の3つの問題が生じると指摘しています。
1)データを活用しきれず、DXを実現できず
2)今後、維持管理費が高騰し、技術的負債が増大
3)保守運用者の不足等で、セキュリティリスク等が高まる。
こうした事態を解消するたえに、「DXを本格的に展開するため、DXの基盤となる既存システムの刷新が必要」としています。この取り組みを阻むのが、以下の5つの課題です。既存システムを老朽化したSAPのERPシステムに置き換えて読み解いてみましょう。
A)既存システムの問題点を把握し、いかに克服していくか、経営層が描き切れていないおそれ
→老朽化したSAPがブラックボックス化してデータ活用ができない、S/4HANAへの移行
B)既存システム刷新に際し、各関係者が果たすべき役割を担えていないおそれ
→老朽化したSAP刷新に際し経営/事業部門/IT部門が果たすべき役割を担えていない、S/4HANAへの移行やそのメリット/デメリットに対する認識が低い
C)既存システムの刷新は、長期間にわたり、大きなコストがかかり、経営者にとってリスクもあり
→老朽化したSAP刷新に必要なコストと時間が経営リスクになる、S/4HANAへ移行しなかったことによるDX実現化の遅れや競争力低下
D)ユーザ企業とベンダー企業の新たな関係の構築が必要
→ベンダー丸投げのシステム構築や維持・保守に偏ったIT部門の体制を改めて、バックオフィス系SAPはベンダーに任せて、DXやデータ活用などは内製化するなど役割分担を明確にする
E)DX人材の不足
→ユーザ企業はDX人材の不足を補う育成・確保に注力し、ベンダー企業はバックオフィス系のSAPなどを効率的に維持・保守する人材やノウハウを拡充するなど
以上の通り、DXの実現かを阻む5つの課題は、SAP ERPを使い続ける全てのSAPユーザ企業が直面している課題に重なっています。このDXレポートのいう「既存システム」を、2025年に保守期限が終了する「SAP ERP」に、DXの基盤となる新しいERPを「SAP S/4HANA」または最新ERPシステムに置き換えて読むと、理解が深まるといえるでしょう。