ベンダのプロジェクト管理義務の範囲はどこまで及ぶ?
ここで、以前から私の連載記事をご覧いただいている方には思い出していただきたいことがあります。ベンダのプロジェクト管理義務です。
システム開発のベンダには、ユーザのプロジェクトへのかかわりを管理する義務があり、具体的に言えば、決められた期限までの要件凍結、必要な情報提供、ユーザテストの実施などプロジェクトを円滑に進めるためにユーザがやるべきことをやらないときには、そのプロジェクトへの影響を説明し、ユーザの協力を促したり、プロジェクト立て直しのため、なんらかの代替案を提示する義務があるというものです。ベンダがこれを怠ると、プロジェクト管理義務違反という不法行為となり、一見すると迷惑をかけられたように見えるベンダの方に損害賠償が命じられることがあるというものです。
この事件で言えば、ユーザがデータの登録をしてくれないことについてベンダが、「いつまでに登録してくれないとカットオーバに間に合いません。もしできないなら、こうしましょう……」と、代替案を示すことが必要というわけです。今回、ベンダは、こうした義務を果たしていたと言えるのでしょうか。一方、ユーザの行いは、ベンダのプロジェクト管理義務を問えるものだったのでしょうか。判決文は実に一方的なものでした。
ユーザ側のデータ登録不実施が判決の決定打に
東京地方裁判所 平成9年9月24日判決より
図書教材販売会社代の対応(特に、登録作業の不実施)は、必ずしも好ましいものとはいえず、このことが、本件システムの本稼働へむけてのスケジュールを遅滞させた一因となっていることは否定できないのであるから、仮に、図書教材販売会社が主張するように、予定された期日の本件システムへの切り替えが不可能な事態となっていたとしても、そのことを理由として本件システムについての契約を解除することは認められないものといえる。
ご覧の通り、裁判所はデータ登録作業を怠った図書教材販売業者の責任を重く見る判決を下しました。では、こうした際によく出てくるベンダのプロジェクト管理義務はどのように判断されたのでしょうか。前半の判決文にもある通り、この開発ベンダは、プロジェクトが遅延した際に、スケジュールの見直しを提案しています。遅延の原因には、自ら開発したシステムの不具合も含まれていますが、とにもかくにもプロジェクトを破綻させない為の代替案を提示しており、これがプロジェクト管理義務を果たしていると裁判所は判断したようです。この際、図書教材販売業者はスケジュールの見直しを拒絶していますが、プロジェクト管理義務を果たしていたかどうかという点に限って言えば、相手が断ったかどうかは問題ではなく、とにかく代替案(もちろん、現実的で実現可能なものである必要はあります)が出ていることが大切だったようです。
不具合が多数出たことだけが遅延の原因であれば、このようにベンダに有利な判決が出ることはなかったでしょう。また、ユーザの打ち合わせへの不参加は確かにユーザ側の非ではありますが、裁判所はそれほど重きをおきませんでした。このプロジェクトでは、データ登録の不実施が最もインパクトの大きな原因だったと判断したのでしょう。確かに、打ち合わせに出てくれない分はベンダとしてもメールや電話で必要事項を確認したりしてフォローすることが可能です。しかし、データを本当に業務に耐える形で登録するには、どうしてもこれをユーザ自身が行うことが必要な場合があり、そのように役割分担を決めたにもかかわらずユーザがこれをしてくれないことにはプロジェクトは進みません。大方のデータ登録を、契約を見直すなどして行うことはできても、本当に業務に影響の出ないデータを間違いなく登録するためには、自身が行うかはともかく、最終的な責任はユーザが負うべきであり、この図書教材販売業者は、それを怠っていました。平たく言えば、登録作業をできないのであれば、ベンダにやらせる。そして自分たちはその見直しと後修正を行うなどして責任を全うすべきだったのかもしれません。判決では、「登録の不実施」と言っていますが、見方を変えれば、ユーザ側のデータに関する「責任の放棄」が問題だったわけです。