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データ移行の責任は誰が負うのか?

 3回にわたってお届けしている、IBMとのコラボレーション企画。最終回となる今回、ご紹介するのは、データの移行の責任が問題になった事例です。この事例はクラウドではないのですが、クラウドでも参考になる事例と思います。

 オンプレミスのシステムからクラウドサービスへ移行する際、問題となるのが旧システムからのデータ移行です。これはクラウドに限らず、新しいシステムを作る際には、通常、新しい機能をリリースし、OSやデータベースも刷新する場合が多いです。ですので、中に格納するデータの構造や項目の詳細も、これに合わせて変えるのが普通です。また、これまでシステムになかった新しいデータを登録しなければならないこともしばしばです。

 すると当然、このデータ移行や登録は誰の責任で行うのか?ということが問題になります。まず、クラウド事業者自身は、こうしたデータ移行について責任を持つというサービスを行ってはいないのではないでしょうか?(私自身、全てのクラウド事業者のサービスメニューを知っているわけではありませんが、少なくとも私が、今まで行ってきたクラウド利用について言えば、そうしたサービスを行ってくれるところはありませんでした)

 従って、多くの場合、ユーザ企業が直接クラウドサービスを利用する場合には、このデータ移行や登録を自分達で行わなければなりません。実際には旧システムの運用・保守事業者などに依頼してデータを取り出してもらうにしても、決められた期限までに正確なデータを取り出す責任はユーザ企業自身にあります。

 仮にクラウド上の新システムを構築してくれるSIerがいる場合には、この業者にデータ移行や登録を依頼し、サービスとして請け負うSIerもいるでしょう。それでも、少なくともデータの取り出しの部分はユーザ企業の責任下で行われることが少なくありません。古いデータというのは、例えば外字が使われていたり、データにゆらぎ(一丁目一番地を1丁目1番地と表現していたり、1-1と書いてあったり)があったりしますし、業務上必要なデータと不要なデータも混在している場合もあります。そうしたことへの対処を判断しながら、本当に業務に使えるデータに仕上げていくには、実はユーザ自身がこれを行った方が早くて正確だからです。

 今回、ご紹介する判例は、クラウドではありませんが、やはりこうしたデータの移行の責任が問題になったトラブルについてです。まずは事件の概要からご覧いただきましょう。

 東京地方裁判所 平成9年9月24日判決より

 ある図書教材販売会社が開発ベンダから入金照合処理システムを買い取ることとした。システムは図書教材販売業者向けにカスタマイズされ、新システムへのデータ登録は図書教材販売業者側の役割とされた。

 ところが、プロジェクトは途中、多数の不具合が発生したこともあり遅延した。開発ベンダは図書教材販売業社にスケジュール見直しの提案を行ったが、図書教材販売会社は、これを拒絶し、結局、プロジェクトは中断となった。

 その後、図書教材販売会社は契約の解除を求めたが、ベンダはこれに応じなかった。確かに開発に遅延はあったものの、図書教材販売会社側にも、打ち合わせに出席しないなど、非協力的な態度があり、また、図書教材販売会社側の役割となっていた新システムへのデータ登録作業も行われなかったことも、プロジェクト遅延の原因となったのであり、一方的な契約解除は認められないとの主張がなされた。

 この訴訟には、多数の不具合発生やユーザの打ち合わせ不参加などいくつかの論点がありますが、結局、裁判所が重視したのは、登録作業の不実施でした。そもそも、なぜデータ登録作業がユーザ側である図書販売業者の役割とされていたのか、残念ながら、判決文を見る限りにおいて、その経緯については明らかにされていませんが、結局、この遅れがプロジェクトにとって最も致命的な要因であったようです。

次のページ
ベンダのプロジェクト管理義務の範囲はどこまで及ぶ?

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

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