今年の夏は過去例を見ないほどの猛暑だったようですね。東京の電力需要も中越沖地震による原子力発電所の稼動停止によって、想定外の状況に追い込まれ猛暑による電力需要を乗り切るのは大変だったようです。ERP導入プロジェクトも当初想定もしていなかった事態が生じて暑さも吹き飛ぶほどの迷走プロジェクトにはまってしまうケースが良くあります。今回は、初めてERPを導入する企業が良く嵌ってしまうパターンのひとつ“導入範囲を想定以上に広げることがリスクとなる”という失敗事例についてご紹介します。
10年前と今のEPR導入プロジェクトの違い
最近のERP導入プロジェクトと、10年ほど前のプロジェクトではいくつか様相が違っているところがあります。筆者が感じる大きな違いは3つあります。
ひとつ目は、以前は「ERP導入と言えば、BPR(業務改革)」を前提とした業務プロセスの見直しを同等に扱っていました。しかし、最近ではBPRが重要であるという言葉は聴きますが、実際に業務プロセスを見直したり標準化したりしてからERPシステム導入に取り掛かる企業が少なくなったような気がします。
二つ目は、機能面です。これは文句無く現在の方が高機能で、日本のビジネス慣習を考慮した優れた機能が多数搭載されています。以前のERPは、お世辞にも合格とはい言えないレベルの機能しかありませんでした。ERPパッケージのベンダーが「その機能はあります。できます!」と言われて検証してみたら、全く使用に堪えるレベルではないというものが大半でした。
三つ目は、導入期間です。これは機能にも関係するのですが、高機能になったこととテンプレート(ひな形)が整備されたことにより短期間導入が可能になりました。これにより機能検証に掛かる時間・作業工数と不足する機能を追加開発(アドオン)する期間が大幅に短縮されました。
全社レベルで有効活用したいという思いが裏目に
さて、こうした現状をふまえて、ERP導入プロジェクトで良くあるケースのひとつ「想定外に導入範囲が広がって収拾がつかない失敗事例」をご紹介いたします。
ある製造業のお客様のケースなのですが、当初は老朽化した会計システムを再構築するところからERP導入を検討が始まりました。既に工場など生産管理には、パッケージをベースとしたシステムが導入されていて会計システムを中心としたERP導入に抵抗はありませんでした。むしろ、積極的にパッケージを採用して全社レベルで有効活用したいという思いが強かったようです。結果としては、この思いがERP導入プロジェクトを迷走させることになります。
複数のパッケージベンダーからの提案を受けて、あるベンダーのERPパッケージを採用することを決めたのですが、このパッケージは会計以外にも販売、購買、物流管理など優れた多くの機能がありました。パッケージの選定を行った経営企画と情報システム部は、せっかくのERP導入プロジェクトということもあり導入範囲を全社レベルに拡大することを考えました。もちろん経理部門の要件には十分対応可能という判断をしたうえで、販売や購買、物流といったレベルにまで導入範囲を広げることを決めたのです。
パッケージベンダーは、一括導入(ビッグバン導入とも呼ばれます)の方がコストメリットも多く、全社導入を決定した場合には大幅なライセンス使用料の値引きも提示されていました。最新版のバージョンで新しく搭載された機能を最大限利用した全社システムの構築は、事業部門の業務効率を向上して経営戦略を支えるIT基盤となる予定でした。もちろん、当初計画よりも大幅に投資費用と導入期間は延びましたが、会計部分の機能要件の検証に問題は無く範囲が広がった部分の機能についてもパッケージベンダー側より対応可能との報告がありました。
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鍋野 敬一郎(ナベノ ケイイチロウ)
米国の大手総合化学会社デュポンの日本法人に約10年勤務した後、ERP最大手のSAPジャパンへ転職。マーケティング、広報、コンサルタントを経て中堅市場の立ち上げを行う。2005年に独立し、現在はERP研究推進フォーラムで研修講師を務めるなど、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスに従事している。
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