DXは「四位一体」がポイント
最初に登場したEY 新日本有限責任監査法人の工藤陽子氏は、「監査の現場から見た2020年3月期決算遅延では、情報収集や立ち会いができないこと、不正リスクに関連する重要な証跡の現物確認が問題になった」と指摘した。
決算が遅れた企業は想定よりも少なかったが、完全なリモート決算ができた企業はわずかであり、デジタル化の遅れが多くの企業を負担増につながった。企業によっては、貸与しているPCを社外に持ち出せない制約が課せられていたケースもあるだろう。
今後に向けて工藤氏が提案したのは、「組織・人」「プロセス」「ルール」「システム」の4つの視点で対応する「四位一体」の変革である(図1)。
工藤氏は4つそれぞれの変革のポイントを次のように説明した。
1. 組織
チーム体制に関しては、標準化に向けて特定の担当者にしかできない業務の洗い出しが必要になる。後述するSAPの取り組みに見られるように、シェアードサービスセンター/CoE(Center of Excellence)で地域ごとにチームの役割分担を明確にした上で、リモートでのやりとりを前提に危機に対する耐性のある組織体制を検討していく必要がある。
2.プロセス
証憑や帳簿のうち、紙でしかできないものを見直し、電子承認の導入を視野に入れていく必要がある。リモートで特に重要なのが決算対応タスクの管理である。海外の拠点がロックダウンしてしまい、連結決算パッケージ収集に時間を要した例が見られた。どの拠点が遅れているかなど、タイムリーなフォローアップをExcelだけでやるには限界がある。BlackLineのようなプラットフォーム活用を検討することが望ましい。
3.ルール
工藤氏が特に強調していたのがITGC(IT全般統制)の有効化だ。「日本企業はIT全般統制についてはあまり力を入れていない傾向が見られるが、統制を効かせることで、証跡の改ざんリスクにも対応でき、監査工数を減らすことにもつながる」と利点を訴えた。加えて、リモートワーク時のルールや有事の際の特別対応ルールを整備することも必要になる。
4. システム
決算と監査に特化したプラットフォームを使っている企業は、監査人から見ても外部からアクセスができ、遅れもなかった。その前提となるリモートワーク環境を整備すること、ポータルやモバイルデバイスの活用が必要になる。
今後に向けては、ビジネス継続性を維持しながらも回復力を養うべく、コスト管理とバランスシートの修復を中心とした財務体力の強化を進めていくことになる(図2)。
企業が変われば監査法人も変わる。工藤氏は「今は時点監査であるが、いつでも監査を受けられる『継続的監査』の実現を目指すべき」と訴える。マニュアル作業に依存していては不可能で、テクノロジーの活用が不可欠になるが、企業側も監査法人側も年間の業務量が平準化するというメリットは大きい。