仮想化、SOA、SaaS、そしてクラウドコンピューティング。エンタープライズITのキーワードは、めまぐるしく変遷している。そうした技術が、本当に実用段階に達し、将来性を持つものかどうかを予測することは、IT導入に携わる担当者の切実な関心事である。かつてない経済危機と言われる現在の環境の中で、経営資源を投入すべきITの領域は何か。「キャズム」というテクノロジー製品の普及の理論の考案者である、ジェフリー・ムーア氏に話を聞いた。
レガシー活用とプラットフォーム化

―貴方の著書『キャズム』(原題:Crossing the Chasm)ライフサイクル イノベーション』(原題:Dealing with Darwin)は、日本でも良く読まれ、「キャズムを超える」という表現は、キーワードとして定着した感があります。現在のエンタープライズITの事情をどのようにご覧になられているか、お聞かせ下さい。
日本で私の本が読まれたことは非常に光栄です。現在でも、エンタープライズITのトレンドには非常に関心があります。大きくは、仮想化、SaaS、SOAといった領域です。これらの技術を私は2つの方向性でとらえています。
一つは、過去のレガシー資産を統合(Consolidate)する方向性、もう一つは統合した資産をプラットフォーム化する方向性です。レガシー統合の方向性で注目してきたのは、データセンターの仮想化とSOAです。
データセンターのサーバー運用は、すでに成熟段階にあり、従来のサーバーを相互に連携させビジネスの拡大に対応させるニーズから急激に成長しました。
SOAは、ソフトウエア開発の用語でいえば、ソフトウエアの内部構造をモジュール化して、改変や再利用をおこなうことで、リファクタリングと似ています。レガシーなプログラムをモジュール化して、レガシー資産と新しいシステムを連携活用させます。
プラットフォーム化は、本来は個別の製品としてつくられた特定の技術を、他の製品やサービスのために共通化して提供していくことです。
SAPは、ビジネスプロセスをプラットフォーム化し、パートナーや顧客に提供しています。シスコシステムズのような「サービス・オリエンテッド・ネットワーク・アーキテクチャ」という考え方も、ルータなどの製品だけではなく、ネットワークそのものをプラットフォームとしてとらえています。
SaaSに関して言えば、まだ未成熟な市場段階であると私はみています。SaaSの最大の利点は、以前は大企業しか活用できなかったITシステムを、サービスとして中堅企業市場にも提供できるようになったことです。しかし、この市場分野は非常に厳しい。
なぜなら、中堅企業のニーズは大企業並みですが、予算はコンシューマレベルだからです。今後は、徹底的な価格競争分野になるでしょう。現在、セールスフォース・ドット・コムがこの分野で最も成功していますが、他にも多くの企業が参入してきています。
―ITに関する経営者の意識の変化については、どのように思われますか。
10年以上前には、個別のITのアウトソーシングは段階にすぎず、ビジネスプロセス全体のアウトソーシングこそが戦略的な最終目標であるという考え方がありました。しかし、私はこの考え方には反対でした。なぜなら、すべてのプロセスをアウトソーシングすると統制を失ってしまうことにつながるからです。
この10年間で企業をとりまく経営環境はより厳格になり、社内外の関係性を管理する必要がますます高まってきたため、経営者はビジネスプロセスのアウトソーシングよりは、個別のITのアウトソーシングに回帰しています。
そういう意味では、選択的でターゲット化されたITソリューションに可能性があると見ています。たとえば、今やホスティング業界は「トルネード」の段階にあります。
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ITイニシアティブ編集部(ITイニシアティブヘンシュウブ)
経営・ビジネス・ITをつなぐ実践情報誌「IT Initiative」編集部
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