新型コロナウイルスの感染収束の見通しが難しい中、経団連が政府に株主総会のあり方についての提言を行うなど、総会の運営をデジタル化するニーズが高まっている。6月のピーク時には3密を避けることが主なテーマであったが、株主との対話を深めるためにデジタルを活用しようとする姿勢を打ち出しているのがグリーである。同社は2020年9月29日の株主総会を本格的なハイブリッド出席型形式で開催した。これまで数々の挑戦的な取り組みを実践してきたグリーと、その仕組みの整備と運営サポートを提供したブイキューブの両社に経緯を訊いた。
脱・シャンシャン総会――株主からの質問内容が変化

――まず、議決権行使まで可能な「出席型」でのバーチャル株主総会を実施した背景から聞かせてください。
松村:グリーの株主様は約3万人ですが、物理での株主総会の出席者は毎年200人程度と、全体の1%未満です。私は責任者として株主総会業務を長くやってきましたが、年に一度の数時間のために貴重な経営リソースを使うのであれば、より良いコミュニケーションの場にするべきだと考え、その方法を模索してきました。経済産業省主催の研究会にも参加し、チャレンジできることはこれまでも積極的に取り入れています。5年ほど前から試行錯誤を続けてきましたが、2019年の「参加型」での成功を経て、より双方向での対話を深化させるべく2020年は「出席型」での開催に踏み切りました。
――過去に実施した株主総会では、具体的にどんな問題意識をもっていたからなのでしょうか。
松村:物理の場合は平日の開催ということもあり、どちらかというと年配の人が多かったですね。私たちはインターネットの会社ですが、若い人たちは働いている時間帯ですし、地方在住の人たちも来られません。どうしても質問内容が偏るのが悩みで、より経営陣との対話を深める方向に変えられないかと考えていました。
――若くてグリーを応援したいと思っている人たちの集まりをイメージしていたので、今の話は意外です。当日の総会はどのように変化したのでしょうか。昔の株主総会は、「シャンシャン総会」と揶揄されることも多かったと記憶しています。
松村:9月のバーチャル総会のアクセス者数は昨年の1.5倍に増え、質問数も昨年の約4倍、かつ内容もかなり変化しました。私たちのサービスを理解した上で質問しているとわかるものが多く、問題の改善に関しては手応えを得ています。一方で、所要時間は少なくなりました。例年であれば平均75分のところが結果的に44分になったのは、コロナが理由です。本来であれば、対話を深めるためにも例年並みの時間を取りたいところでしたが、物理参加の人たちの健康リスクを鑑み、長時間の開催は断念せざるを得ませんでした。
間下:短時間で終了する「シャンシャン総会」は過去のもので、今の株主総会では対話重視の企業が主流です。
松村:残念ながら開催時間は減ってしまいましたが、事前質問を受け付けたことで様々な層の株主様から多方面にわたる質問をもらうことができました。
徳田:例年と比べて議案に関する質問が多かったと思います。質問が多い時に備えて、取り上げる質問の基準をあらかじめ決めていましたが、今年は特に決議事項や報告事項に関連する質問を比較的多く取り上げることができました。本来のあるべき会議体に近づくことができたという手応えを得ました。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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