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第3次AIブーム「失敗と達成」を検証し、今後のビジネス活用を考察する 経験経済の時代のAIテクノロジー Vol.6

edited by Operation Online   2021/01/25 13:00

自社のビジネスをどのようにAIと融合させるのか?

 AI開発や導入に関する知見は急速に一般化していますが、第3次AIブームの直後から今までで、AI関連プロジェクトの成功率が大きく向上しているという事実はありません。しかし、プロジェクトの成功には欠かすことのできない大前提があります。以下で注意すべきポイントを説明します。

テクノロジーを理解し、理想と現実のギャップを見極める

 プロジェクトのたちあげの前に、担当者がテクノロジーをしっかりと理解しているという前提を企業内で作り上げる必要があります。どのような技術がどんな用途に用いられているのかを知り、そしてそれぞれの技術が持つ長所と短所を学んでおくのは手間がかかることですが、この段階でこうした対応をしておくことで、プロジェクト全体効率は良くなります。

 たとえば、ルールベースのチャットボットを構築する場合にどのように回答を導き出すのか、そしてディープラーニングを用いたチャットボットはどのように回答を導き出すのかを理解することが重要です。ルールベースの場合、「Aという入力があったときはBと出力する」といった単純なものとなります。一方、ディープラーニングの場合、アルゴリズムの仕組みは説明できても、出力された回答の根拠を見つけ出すことは困難です。これらの違いを理解しておけば、自社の目指すゴールにどんな手法が向いているのかが明確化されていきます。

 失敗するプロジェクトを立ち上げてしまう企業では、技術を詳しく知らないがために、解決したい課題に対し適切とはいえないアプローチを選択してしまっていることが多いようです。しかし、様々なテクノロジーを十分に理解していれば、特定のニーズに最適な技術や協力するベンダーなどを選択する際に役立つはずです。この前提条件をクリアするためには、やはり、社内でのチーム構築と継続的な教育の実施が欠かせないでしょう。

プロジェクトの全体像を描きあげる

 社内で技術を理解する人材が育ち始めたとき、次に考えなければならないのが、社内のニーズと必要機能を体系的にまとめ、優先順位を付けた全体像を描きあげることです。通常、全体像を描写する際は、専門家に相談しながら進められるケースが目立ちます。

 全体像を描写する際の1つのやり方としては、ビジネスにおけるボトルネックを探し出し、解決した際の影響の大きさを比較し、第一に取り組むべき課題を発見するところから始める方法です。

 プロジェクトの実施にあたり、多くの企業がデータサイエンティストのAI開発能力がプロジェクトの成否を左右すると考えていますが、そもそもの課題設定が間違っている場合、どれだけ優秀な人材がプロジェクトに参画しても、目標通りのゴールにたどり着くことは困難です。そのため、まずはしっかりと課題を設定し、その後に、どのような技術を使うと、どのような価値創出が見込めるのかを評価することが重要となります。

 その上で、現行の業務フローがAIによってどう変わるのかを明確化し、AI導入により生まれる価値と、必要な投資額、新規のオペレーションの運用にかかるコストなどを総合的に判断し、プロジェクトの実施可否を判断していきます。

 その後、パイロットプログラムとして、PoCのような小規模の実証実験をおこない、想定と現実を比較し結果が投資に見合うようであればシステムとして開発を進めていくようにすれば、プロジェクトの成功はかなり近づくのではないかと思います。

先端技術の活用が未来の当たり前を作り上げる

 第3次AIブームと呼ばれ始めた2013年に立ち上ったプロジェクトの多くは、ほとんどが成功とは呼べない状態になっているとお伝えしましたが、かつて夢物語だった「空を飛ぶ」という行為が飛行機の普及により今の世界の当たり前となったように、近い未来、いずれかの企業が掲げたムーンショットビジョンが達成され、それが新時代の当たり前となっていくことは間違いないと思います。

 マーケティング、ヘルスケア、金融サービスなど、データトランザクションを監視したり、同じような質問への回答を何度も繰り返したり、膨大なテキストからデータを抽出するといった、反復作業の多い業務領域における課題解決が可能です。これらの業務担当者にとって苦痛となるタスクをAIにより取り払うことで、彼らはより生産性、創造性の高い仕事を担うことができるでしょう。

 また、AIはIoTや5G、4K/8Kなどの先端テクノロジーの恩恵を最も受けやすい技術です。ビジネスリーダーは、今後それらの技術が大いに発展した際の恩恵を自社の成功として享受するためにも、AI活用に向けたロードマップの策定とともに今から試行錯誤を繰り返しておくことが重要です。



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著者プロフィール

  • ミン・スン(ミン・スン)

    Appier Japan株式会社 チーフAIサイエンティスト 2005年からGoogle Brainの共同設立者の一人であるAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏、元Google CloudのチーフサイエンティストであるFei-fei Li(フェイフェイ・リー)氏などのプロジェクトに携わり、AAAI(アメリカ人工知能学会)をはじめ世界トップの人工知能学会で研究論文を発表。 2014年に国立清華大学の准教授に就任。2015年から2017年には、CVGIP(Computer Vision Graphics and Image Processing)Best Paper Awardsを3年連続で受賞。 専門分野は、コンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。 2018年には「研究者には肩書きよりもデータが必要」と感じ、AIテクノロジー企業AppierにチーフAIサイエンティストとして参画。新製品の開発、既存製品の機能改善のほか、記述的な課題解決を行う。

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連載:経験経済時代のAIテクノロジー ミン・スン

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