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第3次AIブーム「失敗と達成」を検証し、今後のビジネス活用を考察する 経験経済の時代のAIテクノロジー Vol.6

edited by Operation Online   2021/01/25 13:00

同種同類の反復作業の自動化

 今回取り上げる3種類のうち、近年目覚ましい勢いで導入が進められているのが「同種同類の反復作業の自動化」に向けたAIの活用です。RPAを用いたタスクの自動化はこの一例で、様々なタスクを自動化するために用いられています。身近な活用例としては、メールやカスタマサポート用のシステムに記録されたデータを別のシステムに転送し、自動で顧客情報の変更などを実施するために用いられています。

 従来の作業フローとしては、データ入力事務の作業者が同じ内容を複数のシステムで繰り返し入力する必要がありましたが、RPAをもちいることにより、複数のシステムに人為的ミスのないデータを確実に入力できるようになります。

 他にも、金融系企業では、ユーザーがクレジットカードを再発行する際に入力した内容を複数のシステムの既存の入力を新たな内容に自動で更新するために用いられていたり、古い商習慣の残る産業では、紙媒体の見積書などをOCR技術で電子化した上で自然言語処理を施し、必要なデータを必要な場所に入力していくといった作業の自動化にも用いられています。

 RPAは、複数の企業がツールパッケージとして販売しているということもあり、他のAI開発と比べて安価に、簡単にビジネスに導入することができるというメリットも持ち合わせています。そのため、大規模AI開発プロジェクトで投資が回収できず、AIへの失望を感じ始めていた企業がRPAの導入で成功を収め、継続的にAI開発を実施するという判断に至るというケースもよく耳にします。同種同類の反復作業の自動化には、勘と経験が重要とされてきた「職人技」と呼ばれるような技能をAIで自動化するというケースもあります。

 オーストラリアのノーザンテリトリーの政府機関は、マイクロソフトと共同でダーウィンハーバーの水産資源料の調査における魚種の識別や魚数の計測の自動化に取り組んでいます。このプロジェクトでは、水中にカメラを設置して動画を撮影し、動画に映る魚の種類の識別や、数の計測をAIで自動化することを目指しています。

 このAIを用いる以前は、研究者が水中に潜り、周囲の魚の数や種類を計測する方法が主流でした。しかし、ダーウィンハーバーにはサメやワニのような人を襲う危険がある生物が多く生息しているため、研究者は命がけでダイビングをする必要がありました。さらに、この作業は一回だけで終わらせられるような作業ではなく、何日も継続して続けなければいけない作業です。そのため、研究者は毎日のように命の危険にさらされながら、決められた作業を繰り返さざるを得なかったのです。また、ダーウィンハーバーの水は濁りが強いため、水中で正確に魚種を識別し、数を計測するのは研究者個人の能力に大きく依存してしまうという問題もありました。この状況を改善するためにAIを導入することにより、安全に、そして正確に水産資源の調査を実施できるようになったというわけです。

 「同種同類の反復作業の自動化」と聞くと、AIは人々の仕事を奪ってしまうというイメージを持ってしまうこともあると思います。しかし、ビジネスの現場には業務の負荷となってしまっている単純作業や危険な作業が数多く残されています。これを自動化することは人々の仕事を奪うというより、肩代わりするといった解釈のほうが近いのではないかと思います。

ビッグデータの網羅的な分析

 「同種同類の反復作業の自動化」のほかに開発、導入が進められているAIは、アルゴリズムによりデータ間のつながりのパターンを検出し、その繋がりが持つ意味を分析し解釈するAIです。「ビッグデータの網羅的な分析」には予測や検知などが含まれ、優れた事例が多く生まれています。

 たとえば、過去の購入履歴や年齢、性別といったユーザーデータをもとに、類似度の高いユーザーを探し出し、特定のユーザーが次に購入するであろう商品を予測し提示する機能は多くのECサイトに実装されています。

 また、クレジットカードの不正利用が検出され、カードの利用が制限されるという災難に巻き込まれたことのある方もいらっしゃると思います。これも、過去の行動履歴や他のクレジットカードユーザーからの通報などをデータとして蓄積し、普段とは大きく異なるカード利用の動きをリアルタイムで検出するAIが用いられています。インターネットサイトで表示されるターゲティング広告なども、似たような仕組みです。これらの分析は人力でも実行可能ですが、AIをつかえば、必要とするデータをAIが自動で収集しながら、分析結果を即時に提示することが可能になるため、人力では不可能なサービスや仕組みが実現できるようになります。

「エンゲージメントの無人化」

 これまで、顧客や従業員といったステークホルダーとのエンゲージメントは人と人との直接のコミュニケーションにより成り立っていました。顧客に商品の利点を勧めて購入してもらう、業務のやり方を説明する、条件を納得してもらうなど、相手の理解を促し関係を構築するためのコミュニケーションに費やされるコストが企業にとって大きな負担と考えられ、コミュニケーションの方法は変化を続けてきました。これまでのコミュニケーションは人対人を基本でしたが、企業によっては店舗での対面のコミュニケーションから、コールセンターを通した電話でのコミュニケーション、ウェブサイト上でのテキストコミュニケーションに置き換えるところが増えています。

 しかし、上記のような変化はあくまでエンゲージメントに割く人員数を減らすための効率化であり、人が対応するという制約から抜け出すことはできていませんでした。AIをエンゲージメントに用いることは、これまでの制約を一気に取り払える可能性を生み出しています。具体的には、ディープラーニングを用いた高度なチャットボットやスマートフォンなどに実装されている音声アシスタントがAIによる「エンゲージメントの無人化」の方法となります。

 自然な会話が可能なチャットボットは世界的に見てもそれほど多くありませんが、英語圏などではまるで普通の会話をしているかのように思えるほど高機能なチャットボットの実用化に成功している企業もあります。

 チャットボットの優れた点としては、人と違い、深夜であろうと早朝であろうと、どんなタイミングで発生したエンゲージメントの機会にも対応できることにあります。そのため、カスタマーサポートのような営業時間帯が限られているサービスを24時間提供できるようになるわけです。

 もちろん、チャットボットは万能ではありません。人のような柔軟性もないため、開発したものの役に立たないままというケースも少なくありません。ですが、大手企業を中心にコンシェルジュと呼べるほどに柔軟性があり、高度なコミュニケーションを取れるAIの開発に取り組む企業はどんどん増加している傾向にあります。


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著者プロフィール

  • ミン・スン(ミン・スン)

    Appier Japan株式会社 チーフAIサイエンティスト 2005年からGoogle Brainの共同設立者の一人であるAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏、元Google CloudのチーフサイエンティストであるFei-fei Li(フェイフェイ・リー)氏などのプロジェクトに携わり、AAAI(アメリカ人工知能学会)をはじめ世界トップの人工知能学会で研究論文を発表。 2014年に国立清華大学の准教授に就任。2015年から2017年には、CVGIP(Computer Vision Graphics and Image Processing)Best Paper Awardsを3年連続で受賞。 専門分野は、コンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。 2018年には「研究者には肩書きよりもデータが必要」と感じ、AIテクノロジー企業AppierにチーフAIサイエンティストとして参画。新製品の開発、既存製品の機能改善のほか、記述的な課題解決を行う。

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連載:経験経済時代のAIテクノロジー ミン・スン

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