AGCが明かすDX推進の歩み AWSを全面的に活用した取り組みとは
「DX銘柄2020」にも選定された“クラウドを中心とした世界”の構築へ

オンラインカンファレンスとして開催された「EnterpriseZine Day 2021」のクロージングセッションでは、AGC株式会社 情報システム部 ITコンピテンスセンター デジタル・イノベーショングループ サブリーダーの大木浩司氏が「AGC情シスのDX推進に向けた取り組みとは」と題し、同社のDXの取り組みについて解説した。AGCでは2014年にAWSを選定し、SAPを含む基幹システムのクラウドリフトを2018年までに完了している。
2018年にクラウドリフト完了、既に自社データセンターも廃止

デジタル・イノベーショングループ サブリーダー 大木浩司氏
AGCは1907年創立、グループ全体で5万6000人の従業員と217の関係会社を持ち、2020年度売上高は1兆4123億円。営業利益は758億円で、新型コロナウイルス感染症の影響が500億円ほどあったと大木氏。AGCは素材の会社であり、世界市場でNo1シェアの製品が数多くある。大木氏はAGCで約18年間、基幹業務システムのインフラの構築、運用に携わってきた。
2014年にはSAPの開発とAWSの選定を同時に行い、「SAP on AWS」として本稼働させ、AWSの利用拡大を想定したシェアードサービス化も実施されている。今年1月の組織変更でDX推進をリードする立場となり、残っていたレガシーシステムを再構築。「S/4HANA on AWS」と汎用データレイクも5月から稼働させているという。
AGCは1974年に自社データセンターを立ち上げ、ホストコンピュータから始まると、多数のサーバーへと変化し運用コストも上昇した。また、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災を経験し、1ヵ所のデータセンターではリスクが高いと考えたという。そこで2014年から2年間でAWSを評価・選定し、社内に円滑に広めるための「Alchemy」と、自社データセンターを辞めてネットワークを強化する「DAVINCH」という2つのプロジェクトを実施する。

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しかし、BCP対策のために新たにデータセンターを構築するには、数十億円の投資が必要だ。この課題については、AWSを使うことで投資を削減。また、基幹業務システムのAWSへの移行では、50%以上と期待を上回るコストダウン効果もあるという。2014年から既に5年以上AWSの環境を運用し、それが世界有数の先進事例として評価されている。先進的なITの積極活用は、ITの適用範囲を拡げており、情報システムの文化にも変化をもたらしているという。これらが、2つのプロジェクトの成果となっているのだ。
また、2014年にAWSを選定し、年間売上高3,200億円のビル産業ガラスの基幹システム「EBISU」の試行を開始した。これは元々汎用機で動いていたシステムで、「SAP on AWS」で問題なく動くことが確認されると社内の流れが大きく変わり、DAVINCHとAlchemyのプロジェクトへとつながることになる。
さらに、データセンターを廃止する際の課題としては、テナント、電力、空調など年間数億円規模のコストが必要だ。データセンターから順次システムがなくなれば電気代は減るが、「最後はたった1つのシステムのために場所もネットワークも維持する必要がありました」と大木氏。データセンターの費用を多くのシステムの利用部門で負担している際には問題なかったが、残されたシステムが少なくなればしわ寄せがいく。

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そこで、設置面積に応じた費用に見合うデータセンターに一気に引っ越すことに。これを実現するためのプロジェクトがDAVINCHだった。DAVINCHでは、一極集中していたネットワーク拠点を機能分離し、二重化してBCP対策を施した。加えて、新しいデータセンターでの運用も確立する。こうして、引っ越しは情報システム全体を巻き込んだ大がかりなプロジェクトとなった。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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