二極化を果たした2020年の流通・小売業界
渡邉氏は、以前はゴルフ専用ポータルサイト「ゴルフダイジェスト・オンライン」(GDO)のシステム部門や経営戦略部門において一貫した戦略実行に務めてきた人物。現在はUnByteの代表取締役社長を務める一方、フリーランスCIOとして、ITコンサルティング、プロジェクトマネジメント業務、各種戦略立案、事業企画に従事している。
またアビームコンサルティングの福田氏も、同ファームの中で企業の業務改革、IT化、デジタル戦略の立案から実行までを一貫して提供してきたコンサルタント。対談は、コンサルタントである福田氏がGDO元CTOの渡邊氏に、昨年のコロナ禍以降の、デジタルコマースと投資の動向をどのように見ているかについて意見を聞くところから始まった。
総務省の調査データによると2018年から2020年の、ネットショッピングの支出額は増大しているが2020年は新型コロナウイルスの影響でトレンドは大きく異なった。渡邊氏は「Go ToトラベルやGo Toイートなどの国の施策の影響はあるが、給付金の影響が大きかった」と指摘。もしも給付金がなければ、Go Toトラベルなどの施策も限定的だったと語る。
緊急事態宣言発令後2ヶ月程度で国内でのEC世帯の割合が50%を超えた。福田氏は「緊急事態宣言から明らかにトレンドが変わった。特筆すべきはそれまで使っていなかった高齢者がネットショッピングを始めたこと。それまでのECの市場のハードルを超えたといえる」と語る。
一方で企業側では2020年は非常に厳しく一部業種の中で成長が見られたものの、多くの業種がマイナス成長や需要の減少・消滅にみまわれた。
スーパーなどでは、前年比プラス3.4%に成長している一方で、アパレルはマイナス16.8%、化粧品(ドラッグストア)はマイナス10.4%、旅行業界はマイナス54.5%、自動車はマイナス8.8%という状況だった。スーパーの売上増加は「個人の行動範囲の制限」によるもの。旅行業界もGo Toキャンペーンによる一時的な効果はあったものの限定的で、インバウンド需要の消滅をカバーすることはできなかった。
渡邊氏は、「ファッションや化粧品、車といった生活の中で必需ではないと言えるものが厳しい状況にさらされた」と振り返る。福田氏は、この状況下で企業が「マーケティングに対する投資への手控えてしまうこと」が問題だという。
「マーケティング部門はジレンマを抱えている。昨年からの厳しい状況の中で、短期のリターン結果だけで費用を縮小してしまうと、中長期の成長機会まで奪われてしまうことになりかねない」(福田氏)