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デルタ株、船舶座礁、半導体不足……続く「サプライチェーン・ショック」にデジタルで対処せよ

 デルタ株の蔓延によるCOVID-19の拡大、半導体不足による製造業の停滞、スエズ運河の船舶座礁や自然災害、地政学リスク、製品の複雑化によるリコールの発生など、企業のサプライチェーンが危機にさらされています。デジタルによって解決する方向性はあるのでしょうか? 33年以上にわたりB2BのITビジネスにかかわり、現在はクラウドERPベンダーのインフォア(Infor)のマーケティング本部長の北川裕康氏が本音と洞察で業界動向を掘る連載です。

 日本ではまだないと認識していますが、海外には、特定の企業がどのようなキーワードを使ってGoogleなどで検索をしているかを分析するツールがあります。MRP PrelytixDemandBaseなどです。そのツールでエンタープライズ市場での人気のキーワードを見てみますと、日本での検索が多いのがERPやSAP S/4 HANAなどの基幹業務系のキーワード、そしてサプライチェーンのキーワードです。私も分析してその傾向に驚きました。IT業界のメディアではあまり取り上げられないのですが、IT的にみてもかなり面白い分野なので、今回はサプライチェーンを取り上げたいと思います。それにしても、マーケティングの世界は、デジタル化が進んでおりまして、実に面白いデジタルツールが色々あります。

 サプライチェーンとは、直訳すると「配給連鎖」になります。企業活動、特に製造業での製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れのことをいいます。これがないと「ものを調達して、製造して、消費者に届ける」ということができません。製造業立国の日本において、ある意味、サプライチェーンのシステムは製造業の基幹業務システムだと考えます。

 このサプライチェーンの世界が、大きく変わろうとしています。背景には、新聞やニュースでも取り上げられている次のようなことがあります。

  • 今、まさに問題なのが、デルタ株の蔓延によるCOVID-19の拡大で、東南アジアなどの生産国がダメージを受けて部品の配給が滞っていることです。同じような問題は、自然災害が起きた地域で生産をしている場合にも生じます。

  • 自動車業界では、半導体不足が発生しています。新車の発売が遅れたり、提供時間が長くなったりと影響が出ています。現在の自動車は、ハイテク化しており、半導体が不可欠です。不可欠な部品の配給が不足すれば影響は甚大です。本来なら、サプライヤーは、階層化して、下にいけばいくほど、裾野を広くすることで、柔軟な配給ネットワークが組めるのですが、半導体を生産している企業の数は限られており、全体がダイヤモンド型のネットワークになっていることが問題です。

  • 先日のスエズ運河の船舶座礁のように、物流のある部分が切れることによって、配給が滞ってしまいます。COVID-19では、港湾で働く人が減り、深刻なコンテナ不足に陥りました。

  • SDGsの広まりにより、特に食品・飲料などは、生産段階の廃棄ロスをどのように減らすかが、企業の責任として見られるようになったことも課題です。

  • 製品の複雑化によるリコールの発生の可能性が高まり、問題の部品を特定して、迅速に置き換えるなどのチェーンの透過性が求められるようになってきていることもあげられます。

 このように、ここ数年、様々な問題が起きています。こうした背景から、サプライチェーンの世界でも、レジリエンスという言葉が重要になってきています。英語のレジリエンス(Resilience)は、「回復力」や「弾性性」を意味します。 この場合「レジリエントな」という言葉は、困難な問題、危機的な状況に遭遇しても、すぐに立ち直ることができることを指します。レジリエントなサプライチェーンとは、回復力の高いサプライチェーンを意味します。そのためには配給ネットワークをいかに柔軟なものにするかが課題です。先ほど述べたように、製造業では階層型のダイヤモンド型のネットワークが組まれているため、特定の数社の企業に依存しているため、一部の企業の代替が出来ない状態なのです。そのため、依存するサプライヤーに問題が発生すると、全体のチェーンがストップしてしまいます。この解決のため、ダイヤモンド型ではなく、階層型の山形や、柔軟なネットワーク型にしようという試みがあります。ただ、高度な素材や部品を作る企業は限られているのが現実で、そんなに簡単な話ではないのです。

 スエズ運河の船舶座礁のような問題が発生した場合に、代替の物流手段を迅速に確保して、物流がスムーズにするようにすることもも、弾力性を上げるためには大切です。そのためには、積荷を正確に追跡することが必要です。ちょっと意味はずれますが、私がマイクロソフトの製品マネージャーの頃、パッケージビジネスが中心でしたので、シンガポールで生産したパッケージの出荷を船にするのか、飛行機するのかを交渉するのが大きな仕事でした。コストをとるか、時間をとるかの判断が重要だったのです。今のソフトウェアビジネスはクラウドやダウンロード型が中心になったため、そのような物流の問題に頭を悩ますことはエンタープライズ市場ではなくなりましたね。

次のページ
「コラボレーション」と「透過性」がサプライチェーン問題のカギ

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北川裕康(キタガワヒロヤス)

35年以上にわたり B2BのITビジネスにかかわり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Inforなどのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などの要職を歴任。現職は、クラウドERPベンダーのIFSでマーケティングディレクター。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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