DXの軸は「進化するテクノロジーと経営をどう紐付けるか」
DXといえば、企業にとって近年最も大きな経営課題の1つといえるだろう。いつの時代もテクノロジーはビジネスを大きく変え、社会を大きく変えてきた。そうしたDXの現場で、兼安氏は小売流通、製造、物流、金融、保険、IT、メディア、ECなどあらゆる産業の、基幹系・事業系をはじめとする様々な案件に携わってきた。CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)株式会社が提供する「Tポイント」のシステムを手掛けた立役者としてご存じの方もいるだろう。
外資系コンサルティング会社からキャリアをスタートし、データサイエンス企業やCCC、CRMベンチャーなど、ビジネスの最前線を歩いてきた兼安氏が、突如として東南アジアに向かったのは東日本大震災後の2011年。ラオスやインドネシアなどを放浪し、事業に乗り出すものの、その成長のエネルギーにあてられて帰国したというユニークな経歴を持つ。
「向こうはとにかく成長速度がすさまじくて、投資してもどんどん資金が吸い込まれていく。その成長のエネルギーたるや…、日本もこのままではまずいと感じた」と兼安氏は振り返る。そして、帰国後はふたたびコンサルタントとして活動し、FinTechやMaaS、総合商社のDXなどに携わってきた。現在は、2020年に設立したDN Technology & Innovation株式会社にDXアーキテクトとして参画している。
そんな兼安氏がDXを推進する上で、常に「テクノロジーが進化していく中で、経営とシステムとの関係がどうあるべきかを紐付けて考えること」を基本的なスタンスとしているという。テクノロジーが日進月歩で進化していく中で、「何をどのように利用して何を変えるのか」という“答え”も刻一刻と変わっていく。それをいかにキャッチアップするか、技術と経営の両面からの判断が問われるというわけだ。
たとえば、兼安氏が取り組んだTポイントのシステムは、UNIXサーバーからPCサーバーへの変換期、64ビットCPUが今よりも高額だった頃に構築された。当初の見積もりは予算の5倍と高額で、ビジネスとしては採算が取れない。そこでRFPを工夫し、ハードウェアのアーキテクチャまで踏み込んで調整することで、事業的にも成り立てるように設計したと振り返る。
もちろん、クラウド全盛の現在では同じことをしても意味はないが、どの時代も変わらないのが「現在の経営にとって、どのようなシステムをどのようなテクノロジーで実現すべきなのか」という問いだ。兼安氏は、「その問いに対する答えを見つけるためには、大きいところから鳥瞰的に捉えること、ミクロな視点で積み上げること、その両方を行き来しながら考えるしかない」と語る。