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TOYO TIREは「タイヤ力」でCASE時代の到来に備える

SAS Forum 2021レポート#02:「TOYO TIRE タイヤセンシング技術の公道実証試験に関して」


 自動車業界を取り巻く環境が激変する中、従来からの部品機能の提供に加えてインテリジェンスの提供で成長を志しているのがTOYO TIREである。10月21日から22日にかけて行われた「SAS Forum 2021」に登壇した同社の竹澤宏典氏は、「TOYO TIRE タイヤセンシング技術の公道実証試験に関して」と題した講演で、公道で進めている実験内容を紹介した。

本格的なモビリティ社会の到来に備えて着手した研究

TOYO TIRE株式会社 中央研究所 第二研究部 竹澤宏典氏
TOYO TIRE株式会社 中央研究所 第二研究部 竹澤宏典氏

 1945年に創業し、兵庫県伊丹市に本社を構えるTOYO TIREは、タイヤ事業と自動車部品事業を手がける。2019年1月に東洋ゴム工業から社名を変更した背景には、「TIRE(タイヤ)という言葉を社名に冠する企業グループであることに誇りを持ち、事業を通じてモビリティ社会を支え、豊かにしていきたい」という強い思いがある。事業規模は同業他社比で決して優位にあるとは言えないが、小回りの効く機動力を持ち味として、独自の強みで事業を伸ばす経営を志向している。フロンティア精神を体現する企業でありたいと考え、2019年6月にはブランドステートメントも「まだ、走ったことのない道へ。」に刷新し、2020年3月からは「青を灯せ」の広告メッセージのグローバル展開も実施中だ。

 2020年12月期の連結売上高は3,437億6千4百万円。内訳はタイヤ事業が約9割を占める主幹事業で、地域別では特に北米が重要な市場である。ピックアップトラックやSUVなどの大型車両向けのタイヤに強みを持ち、大きくTOYO TIRESとNITTOの2つのブランドで、顧客の様々なニーズに応える製品を展開している。前者はドライバーの理想の走りを実現することを重視し、様々な車両向けの製品をフルラインアップで展開している一方、後者はドレスアップやチューニングを好む北米市場で熱狂的なファンを抱える革新的なデザインを特徴としている。

 数ある自動車部品の中でも、タイヤは路面に接地する唯一のものであり、「車両の重さを支える」「前に進む力を伝える」「ドライバーの意図した方向に曲げる」「加えられた衝撃を和らげる」機能を持つ。ドライバーの安全運転を支える重要な部品だが、「従来のような部品としての機能提供だけから変わらないといけない」と竹澤氏は訴える。と言うのも、「CASE:Connectivity(コネクテッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)」と呼ばれる技術革新の進行で、より安全で安心な移動を支援する付加価値の提供が求められるように時代が変化しているからだ。
近い将来の本格的なモビリティ社会の到来に向けて、その中核になるのがタイヤ力を検知する仕組みである。タイヤメーカーはタイヤに取り付けたセンサーから様々なデータを得て、車両、ユーザー、運行管理の会社などにインテリジェンスを提供しなくてはならない。

TOYO TIREが考える「タイヤ力」とは?

 そのために必要になるのがセンサー情報からタイヤ力をモデルによって推定する「タイヤ力を検知する仕組み」である(図1)。

図1:タイヤ力を検知する仕組み 出典:TOYO TIRE[クリックして拡大]

 「タイヤ力」とはTOYO TIRE独自の呼称で、「タイヤからインプットされる空気圧や温度、路面判別、荷重、摩耗、異常といった情報から推定される実際のタイヤパフォーマンス」のことを指す。タイヤ力推定モデルは、SAS Institute Japanとの協業で、データ分析技術やAIを活用して構築した。

 TOYO TIREは同社テストコースでの予測モデルの構築を経て、公道での実証試験を行った。この実験の狙いは、複雑な条件下での走行データを学習し、リアルな使用環境に対応した予測モデルを構築することにある。実際の車両運転では、ドライバーは市街地路のような走りやすい道だけを選んで走るわけではない。勾配の厳しい坂のある道、急な旋回がある山道、速度の早い高速道路など、様々な走行条件をモデルに学習させる必要がある。気象条件も安全運転には重要だ。晴れた日だけでなく、雨が降って路面が濡れている時、気温が低く路面が凍結している時、雪が降っている時など、様々な条件を加味する必要がある。特に路面把握が難しいのが雪道である。新雪の状態、時間が経って押し固められた状態、散水による除雪をした状態など、その時の気象条件も複雑に影響する。TOYO TIREは、このような悪条件でもタイヤ力の把握で未然に事故を防げると考えた。

 公道での実証試験で採用したアーキテクチャーは、車載側とクラウド側の環境が連携するものだ(図2)。車載環境では、タイヤからセンサーデータを収集するテレマティクスと、データを読み込み、演算を実施するエッジの構成を採用した。このエッジでは、結果を可視化する機能も備えている。モバイル通信でエッジ環境と接続するのがクラウド環境で、収集データを学習して演算モデルを更新する。

図2:クラウドとエッジに分けたアーキテクチャー 出典:TOYO TIRE[クリックして拡大]

 この全体アーキテクチャーの特徴として竹澤氏が挙げたのが、車載環境とクラウド環境の接続でVPNとセキュアMQTTを使っていることだ。こうすることで、車両走行時の一時的な断線からの復旧を容易にできる。センサーデータの処理ではSAS Event Stream Processing(以降、ESP)を採用した。車載側には軽量なESP Edge、クラウド側ではESP Studio、モデルをデプロイするためのエージェントとしてESP Studioを使っている。また、タイヤ力推定モデルの構築で使っているのはSAS Viyaである。「様々な機能があるが、独自のインメモリーテクノロジーが特にモデル構築にマッチしている。また、使い慣れた環境や言語からの直接利用が可能な点も役立っている」と竹澤氏は評価した。

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行動での実証実験で直面した様々な課題

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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