「みらいの郵便局」実現をめざす、日本郵政グループのDXとは
郵便物流事業を手がける「日本郵便」、銀行事業を行う「ゆうちょ銀行」、そして保険事業を担う「かんぽ生命」という3つの巨大事業を束ねる日本郵政。2007年の民営化後も多くの顧客にサービスを提供し続け、いわば日本における社会的インフラの一角を担う存在だ。そんな日本郵政も、グループ全体でのDXに取り組むことを命題に2020年10月にDXガバナンスや方針決定を行うDX推進室を発足[※1]。2021年5月に発表した中期経営計画「JP ビジョン2025」(PDF)には未来に向けた成長戦略の1つとしてDXを掲げ、リアルな郵便局ネットワークにデジタル技術を掛け合わせて、郵便局を『お客さまと地域を支える共創プラットフォーム』とすることを宣言している。そのDXの実行部隊として2021年7月に設立されたのが、「JPデジタル」だ。
DX推進室の立ち上げから参画し、現在はJPデジタルの執行役員 CIOとしてDX推進を牽引する柴田彰則氏は、「日本郵政グループ各社にもデジタル担当部署があり、それぞれ事業内でのDXに取り組んでいたが、制度面や組織面の問題もあり、グループ全体としての最適化および本質的なサービスへの視点が欠けることが多かった。そうした中でJPデジタルは、グループ内でも独立した組織として、事業横断的に柔軟かつ迅速に動ける、いわば機動力と専門性を持った“DXの起爆剤”の役割を期待されている」と設立の背景を語る。
それではJPデジタルが担う「日本郵政グループ全体のDX」とはどのようなものか。まずはサービスのDXについて基本姿勢としているのが、日本郵政が「日本の社会インフラの一部を担う存在である」という事実だ。現在、郵便局を窓口として郵便や銀行、保険などさまざまなサービスが提供されており、顧客は小さな子供から高齢者と幅広く、障害のある方や外国籍の日本在住者など、事情やライフスタイルもそれぞれ異なる。そのすべての人に快適で便利なサービスが提供できているのか、改めて本質を見つめながら、改善・改革していく必要がある。
「郵便局が誰にとっても便利で魅力的な“行きたい場所”になるために、DXをどのように活用していくか。そう考えると、単なる効率化・デジタル化や使える人だけが使える最新デジタルサービスという発想ではなく、改善にしても新たなサービスにしても、これまでの郵便局と同様、誰もが使えて広く社会全体に役立つもの、かつ未来に向けて持続できるユニバーサルなサービスであるべきだと考えている」と柴田氏は語る。
そうなれば、既存の資産である全国2万4000件もの郵便局ネットワークの活用は必然といえるだろう。人々の生活に溶け込み、信頼感を獲得している郵便局の“郵便局らしさ”をそのままに、DXを活用してより便利で役に立つものにしていくという考え方だ。
柴田氏は「デジタル技術的な視点からではなく、まずは郵便局のサービスとしてどうあるべきか、事業としてのあり方について喧々諤々と議論した。その結果、『誰でも利用できる画一的なユニバーサルなサービスを、それぞれのニーズの多様さに合わせて使いやすい形で利用できること』という方向性を得た」と振り返る。つまり、目指すべきは「デジタルによるサービス」ではなく、「郵便局らしい魅力的なサービス」であり、それをより快適に便利なものにするためにDXを実行するという発想だ。その考えのもと、JPデジタルでは目指すべき理想像を「みらいの郵便局」と位置づけ、事業目標に据えている。
[※1] 「新規ビジネス室」及び「DX推進室」の設置について(日本郵政プレスリリース)