一人の技術者が、突然600人を率いるリーダーへ
「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャーとなったのが、本書の主人公である津田雄一さん。当時39歳だった津田さんは、2015年に史上最年少で「はやぶさ2プロジェクト」のプロジェクトマネージャーに任命されました。
それまでプロジェクトエンジニアを担当していた津田さんは、プロジェクトマネージャー経験はもちろん、マネジメントの知識を専門的に学んだ経験は一切なかったと語ります。
プロジェクトマネージャーは、様々なミッションに対して最終的な決断を下す統括責任者であり、スポーツに例えると監督という立場。プロジェクトエンジニアはコーチのようなもので、立場も権限も大きく異なると言います。さらに、「はやぶさ2プロジェクト」メンバーには工学系や理学系の研究者や協力者のほか、海外メンバーも含め総勢600名。
津田さんがプロジェクトマネージャーに任命されたのは、「はやぶさ2」が2014年12月に打ち上げられ、宇宙空間で様々な確認を受けた後、いよいよ小惑星「リュウグウ」へ向かうというタイミングでした。探査機の開発と打ち上げが無事に完了し、「さあ、これからだ」というタイミングで任命されたことに、動揺した津田さん。当初は覚悟や自信もなく、白紙同然のスタートだったものの、プロジェクトを通して津田さんは「無駄」を大切にした組織作りを目指していきます。
津田さんが最初に着手したのは「人集め」。すべてのメンバーが、自発的に問題の解決策を探れるようなチームをゼロから作ることを目指したと言います。
初代「はやぶさ」が数多のトラブルを克服し、世界初となるサンプルリターンに成功したことは、世間で大きな評判になりました。津田さんによれば、当時のプロジェクトマネージャーを務めた川口淳一郎さんによる、具体的かつ的確なリーダーシップ、トップダウン型のチームマネジメントによってもたらされた成果だと語ります。しかし、当時の通信記録や現場での体験を通して津田さんが感じたのは、この方法では「はやぶさ2」のオペレーションが持たないのではないか、という点です。