ワークマン/ベイシア/カインズ: それぞれのバリューチェーン差異と「はりねずみ経営」とは?
「ガートナー アプリケーション・イノベーション&ビジネス・ソリューション サミット 2022」
1958年に群馬県伊勢崎市で創業した「いせや」は、ベイシア、カインズ、ワークマンなどの物販チェーン7社を中心に29社で構成する1兆円規模のリテーラー「ベイシアグループ」に成長した。創業から60年以上を経た今、グループ各社の個性を生かしDXを実践しているところだ。「ガートナー アプリケーション・イノベーション&ビジネス・ソリューション サミット 2022」に登壇したベイシアグループ総研 執行役員 IT統括本部長 樋口正也氏は、「ベイシアグループのはりねずみ経営とDX ~現状から将来への展望とビジョンへ」と題した講演を行った。
ベイシアグループの「はりねずみ経営」とは?

国内流通業で売上高1兆円を超えるのはベイシアグループを含めて7社。成長を支えたのが「はりねずみ経営」である。通常は持株会社がグループ会社を支える構図だが、ベイシアグループは違う。持株会社が縁の下の力の持ち的にグループ会社を支える。グループ会社は「はりねずみ」のように、自分たちの強みを発揮する“尖った”存在であり続ける。とは言え、それぞれが個性を発揮しても、個社では限界があることもある。その場合は持株会社がサポートするが、標準化を名目に指導を押し付けるわけではない。
2021年7月からグループに参画したCDO/CIOの樋口氏が、DXの実践で利用しているのが、バリューチェーンのフレームワークである。一般に、小売業のバリューチェーンは商品企画、開発、製造、物流、マーケティング、販売へとつながっている。同じ小売の業態だからといって、グループ個社のバリューチェーンは同じではない。細かく見ると、それぞれ少しずつ異なる。わかりやすいのがワークマン、ベイシア、カインズの業態の違いである。生活の「衣食住」で分けると、「衣」をワークマン、「食」をベイシア、「住」をカインズが受け持つ。
物流であれば、ベイシアは冷蔵品や冷凍品での輸配送が必要になるのに対し、ワークマンやカインズは常温品しか扱わない。求められるスピード感も異なる。食品を扱うベイシアでは、晩ご飯どきに商品が揃っていなければならない。衣料品やDIY用品とは商品ニーズも異なる。そうなると、需要予測のやり方も同じにはできない。バリューチェーンにおける変革ポイントは、個社それぞれで変える必要がある。
とは言え、グループ全体でやるべき共通部分はある。その代表例がデータ活用だ。グループ各社がそれぞれに顧客と接していたとしても、同一人物を別々に扱うようでは体験価値が損なわれる。また、ポイント還元をするにも、個社単位では施策が分散してしまう。イオングループや楽天のように、金融事業をグループ内に抱える競合も存在する。だからこそ、ベイシアグループは、データ活用以外でも、働き方改革、ペーパーレス、グループ共通基盤のように、個社でやるべき部分とグループ横断でやるべき部分を切り分けてDXに取り組んでいる。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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