IT部門に今必要なのは「会計知識」2000年のERPブームから約20年、ITと経理の関係に変化
【第1回】IT部門のアプリケーション担当者が今、会計知識を習得するべき理由

伝統的なバックエンドシステムから売上や利益増に直結するフロントエンドシステムへと、IT投資の対象が拡大しています。これにともない、企業はIT人材の強いリーダーシップを求めています。目指すべきIT人材像も変わるでしょう。DX時代のIT部門を取り巻く現状を踏まえ、今回は将来のキャリアアップを見据えたとき、確実に必要になる会計知識の習得を考えてみたいと思います。
変わる上場企業のIT部門
DXブームの影響で、企業におけるIT部門の位置付けが大きく変わりました。以前ならば、企画機能以外をアウトソースする方針の会社も多かったのが、内製化に挑戦しようと方針を変える会社が増えるなど、トレンドの変化を感じる機会が増えています。実際、日本CFO協会が今年の3月~5月に実施した財務マネジメントサーベイ[1]からも、「データに基づく経営意思決定を実践している企業のうち、データ分析作業を外注化している企業は5%」という結果となっていました。最近は、半導体の不足、為替の急激な変動や原材料、エネルギー価格の高騰など社会・経済環境が激変し、難しい経営の舵取りが求められていることもあり、“データの裏付けなしでは経営意思決定はできない”という状況になっています。VUCA[2]の時代と呼ばれる今、これは一過性のものではなく経営面、人材育成面から内製化が求められる領域と思います。
もう1つ、クラウドの採用が定着してきたことも、IT部門の今後にとっては大きな意味を持ちます。以前はオンプレミスが当たり前でしたが、今は政府のIT調達でさえ「クラウドファースト(クラウド・バイ・デフォルト原則)」方針を打ち出すまでに変化しています。パッケージアプリケーションの採用が進んだとき、多くの日本企業は自社の業務をパッケージ機能に合わせるのではなく、カスタマイズ・追加開発でパッケージを業務に合わせることを選択してきました。しかしながらERPブームから20年を経てDX/クラウドの浸透と共に、価値を生み出すビジネスのフロント領域にIT投資を集中させ、バックオフィス業務などはSaaSを含むパッケージの機能に業務を合わせる「Fit to Standard」の考え方が近年、急速に主流となりつつあります。

このような環境変化にともない、アプリケーションエンジニアの役割も変わり始めました。少なくとも上場企業のIT部門に在籍しているのであれば、自社のビジネスにどのようなアプリケーション、SaaSを採用するか、今まで以上に目利きのスキルが必要になります。事業規模が大きくなるほど、多くの業務機能が必要となりますが、これまで培ったスキルだけで自社に適切なSaaSを含むアプリケーションの構成をデザインできるでしょうか。その会社の事業の強み弱みや業務プロセスの理解、既存のテクノロジースタックの理解、連携でできることの見極めなどが求められるわけですから、アプリケーションエンジニアのスキル要件も変わってきます。
これからのキャリアパスが不安定に見えたとしても無理はありません。ですが、それはIT部門だけではないのです。私たちが接点を持つ経理部門の例で言えば、自動化の進展で伝票のチェックや銀行の残高照合のような単純なオペレーションはなくなりつつあります。代わって、データを駆使した経営管理のように専門領域を持つT型人材やπ型人材へのニーズが高まっているのです。
[1] 『データ駆動型のCFO機能に向けた現状と課題』(櫻田修一、Corporate Executive Forumより)
[2] 「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとったアクロニム
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篠原 史信(シノハラ チカノブ)
予算管理EPMベンダーであるBoard Japanのカントリーマネージャ。Workday となったAdaptive Insightsでも代表職を務め、30年にわたり、財務・非財務のBI領域で活躍するオピニオンオーナー。近年では、経営企画DXとしてFP&A概念の浸透に情熱を注ぐが、BSCやTO...
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