クラウドリフトから始まった自治体のクラウド移行
AWSの公共部門は、「テクノロジーとデータを民主化し、 一人ひとりがデジタルの恩恵を享受できる社会の実現に貢献すること」をその目標に掲げ、中央省庁、自治体、NPOおよび公益法人、教育機関、医療機関に最新のクラウドテクノロジーを提供している。顧客は公共・準公共機関であるが、常に公共サービスの最終受益者である市民が最新のテクノロジーにアクセスでき、市民サービスをより良いものにすることにAWSは注力している。
この他、短期間でサービスインができるとあって、GovTechやHealthTechに分類されるテック企業、地域のシステムインテグレーターもAWSを利用している。たとえば、岡山に本社を置く両備システムズはコロナウイルスワクチン予約システムをAWS上に構築し、全国200以上の自治体が同社のシステムを利用している。
とは言え、全体としては国内の公共分野におけるクラウドの利用は始まったばかりだ。以前は既存のシステムで満足していて、クラウド移行への関心の低い組織が大多数であった。その姿勢を大きく変化させたのが、2021年9月のデジタル庁の発足と、ガバメントクラウド(Gov-Cloud)利用を促す方向への政策転換である。
2022年10月、日本政府は「地方公共団体情報システム標準化基本方針(以下、基本方針)」を閣議決定した。河野太郎デジタル担当大臣は「2025年度までにガバメントクラウドを活用した標準準拠システム移行を目指す」と発表し、全国1,700の地方自治体の情報システム標準化の期限が明確になった。2025年度末に向け、どの自治体も標準化対象20業務のガバメントクラウド移行を最優先課題として取り組んでいる。
ただし、その進捗は自治体の規模で異なり、規模の大きい一部の自治体は以前からクラウド活用を進めている。2021年10月にデジタル庁はガバメントクラウド先行事業を実施すると、応募のあった自治体のうち8つを採択。それぞれが公開されている標準仕様を参照しながらプロジェクトに取り組んできた。
2022年9月には8団体のプロジェクトの中間報告が公開されている。なお、先行事業に参加した8団体はそれぞれ異なるアプローチでクラウド移行を進めており、“マルチベンダー”を採用するところもあれば、シングルベンダーによる“オールインワン”を採用するところもある。1団体だけの占有環境の場合もあれば、他の団体と共有の場合もある。クラウドに移行する業務の数もそれぞれで異なる。
コスト削減効果は選択したアプローチで異なることが予想されるが、先行事業に参加した8団体はクラウドリフトが終わり、次のステップのクラウドシフトが視野に入る。大場氏は、「今回の先行事業に参加していない自治体の中にも、標準化に向けて準備を進めているところがある」と述べた上で、「主要20業務以外にも、クラウドに載せることで良くなる業務はある」と語り、自治体ごとの事情に応じたクラウド活用を支援する姿勢を示した。