航空業界はコロナ禍で極めて厳しいビジネス環境に置かれた。これまで経験したことのないような顧客の減少、運航便の削減などがあり、それらの環境変化に迅速に対応しなければ、企業の存続すら危ぶまれた。そのような厳しい状況の中でもANAホールディングスは、経済産業省と東京証券取引所により「DX銘柄2022」に選定され、積極的にデータを活用して変革に取り組んでいる。そうしたコロナ禍で、全日本空輸(以下、ANA)のDXの取り組みを支えたのがCX(Customer eXperience)基盤だ。そして今後のデータ活用を見据え、ANAホールディングス全体でのデータ活用を目指すデータ基盤も整備されつつあるという。ANAで進むDXとデータ活用の裏側とは。
ANAが取り組む新たなデータ活用基盤「BlueLake」
2022年6月、ANAホールディングスは経済産業省および東京証券取引所が選ぶ「DX銘柄2022」に選定された。同社がDX銘柄に選定されるのは3度目であり、22年のDX銘柄に同社が選ばれた理由としては、コロナ禍における環境変化に対しデジタル、データを活用したビジネスモデルの創出や、エアライン事業のサービスモデルの変革推進、組織・企業文化醸成に積極的に取り組んできた背景があったからだ。
航空事業には旅客便、貨物便の運航、航空機の整備、空港ハンドリング、さらにはグループ各社による航空運送事業に付随したサービスなど様々な要素がある。そのような航空事業は、他の業種、業態の企業と比べデータ量が取り立てて多いわけではない。しかし様々な業務から集められるデータは、かなり複雑なものとなっている。

たとえば航空券の予約から発券、搭乗に至るプロセスは、顧客との間に複数のチャネルがある。そのような状況でも、航空会社としては利用者に対して快適な空の旅を提供したい。そのためには、突発的な変更などにも柔軟に対処する必要があり、複数の業務プロセスから生まれる多様なデータの整合性をとりながら、業務プロセス間でなるべくリアルタイムに連携できることなど、デジタルとデータの活用が求められている。
ANAでは従来、主に自社構築のITシステムで多様な業務を運用してきた。最近ではそれらに加えSaaSなども利用する。自社構築の環境なら、データの制御などは自分たちで行いやすい面もある。一方でSaaSのようなものは、データ制御のためにアプリケーションに手を入れることは難しい。そのためアプリケーションの外側で別途、データを統合してシステム間でのスムーズな連携をする必要がある。
またデータの名称などは利用する部署により違うこともあり、同じ名前でも業務によりデータの意味合いが微妙に異なることもあるという。
「データのあるあるで、目的が違えば同じデータの名称でも抽出ロジックが変わります。データを活用する上では品質管理が大変ですが、とても大切なものです」と話すのは、ANA デジタル変革室 イノベーション推進部 データデザインチーム マネジャーの井岡大氏だ。

ANAホールディングスでは、コロナ禍前からデータ活用を進めてきてはいた。しかしグループ会社ごとにデータが断絶されており、グループ全体が保有する情報資産(搭乗客やホテル、ケータリングや貨物など)を横展開できるデータ活用はまだまだ不足していた。
そこで新たなデータ活用基盤として同社が力を入れて構築しているのが「BlueLake」だ。これはあらゆるデータを取り込んだデータ活用プラットフォームであり、様々な分析が行えるものを目指している。元々同社には、航空運送事業に特化したデータを集めたデータウェアハウスはあったものの、「BlueLakeは航空事業以外のデータも取り込み、グループ横断でデータ分析ができるデータレイクのようなものです」と井岡氏は説明する。
BlueLakeは億単位のレコードを処理する仕組みとなっており、構造化、非構造化、さらには半構造化など多様なデータを取り込める仕組みとなっている。また既存のデータウェアハウスは、分析する際には必要なデータを抽出しExcelなどで可視化するようなライトな使い方が多かった。しかしBlueLakeは多様なデータに対して、システム部門以外の社員も直接様々な分析手法を適用し、自動化できるヘビーユーザー向けのモダンなアーキテクチャーの仕組みになっている。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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