アクティビストの登場とともに加速化、DNPの大胆な経営改革
黒柳氏は、大日本印刷(DNP)の大胆なビジネス変革の軌跡を語った。かつての印刷業から、「P&I」(印刷と情報)の強みを武器に、情報サービス、包装・建材、エレクトロニクス、医療・ヘルスケアと、その領域を驚くべき速さで拡大している。
とりわけ、エレクトロニクス部門の躍進がめざましい。利益の半分以上をこの分野で生み出すまでに成長し、EVやスマートフォン向けのリチウムイオン電池用バッテリーパウチ、有機ELディスプレイ製造用のメタルマスクなど、高付加価値製品の開発に成功している。
黒柳氏は同社の特徴をこう語る。「DNPグループは、印刷というイメージが強いですが、実際には非常に高度な製品を扱っています。印刷技術の応用範囲は広く、特に微細加工が得意です」(黒柳氏)
さらに黒柳氏は、経理・財務部門の革新的な取り組みについて明かした。グループ全体のDX推進に力を注ぎ、システム、業務、組織の三位一体での改革を進めているという。
「次世代の会計システムを整備し、その上にBlackLineの仕組みを乗せることで、グループ内の会社の枠を超えて業務単位で経理業務ができるようにしたいと考えています」(黒柳氏)
そして、2023年にヘッジファンドのアクティビストが大株主となった際の経験を共有した。
黒柳氏はこう振り返る。「2023年、大手アクティビストがDNPの第3位の株主になったという報道がされ、それから2週間後に、中長期的な経営の基本方針を発表しました。その内容は、PBR1倍超を目指し、そのために資本コストを上回るROE10%を目指すというものでした。アクティビストによる投資の発表の2週間後だったため、メディアからはアクティビスト対応による発表と言われましたが、実際にはこの方針を出すための計画を2年ほど前から立てており、たまたまタイミングが重なったという状況だったのです」(黒柳氏)
さらに、黒柳氏はこの時期に同時に進められていた経理業務の改革について語り、この対応と同期していたことを述べた。
「具体的には、現状の様々な仕組みが混在し、経理組織も会社単位にある状況をゼロベースで見直します。次世代の会計システムを整備し、その上にBlackLineの仕組みを導入することで、グループ内の会社の枠を超えて、業務単位で経理業務ができるような体制を目指しています。この新しい仕組みは来年には実行段階に入る予定です」(黒柳氏)
こうした取り組みにより、DNPはアクティビストへの対応だけでなく、経理業務の効率化と高度化を通じて、企業価値の向上を目指している。
「結果としてアクティビスト対応は、既に準備していた経営方針の公表を早めるきっかけとなりました。経営方針の改革のトリガーになったと思います」と黒柳氏は胸を張った。