深化と探索は「技術起点」と「課題起点」の両輪で
次に、AI/IoTソリューションの構築について。「ソリューション構築にあたっては、『技術起点』と『課題起点』の2つのアプローチを両輪で進めている」と野村氏。技術起点の取り組みでは、外観検査の自動化、材料開発の効率化(マテリアルズ・インフォマティクス(MI))、知識のデジタル化・活用、工場の物と情報の可視化、生産ラインでの異常検知と最適化・不良要因解析など、社内共通で活用できるソリューションを「型」として標準化することを始めている。これにより、各部門への迅速な展開を可能にしているとのことだ。
一方、課題起点の取り組みでは、事業部門の製造現場が抱える課題やニーズを把握し、DXによる解決機会を特定。“横串共有会”を通じて各事業の案件を共有し、ソリューションごとの目標と展開ペースを定量化している。
野村氏は、「0から1を生み出す技術開発だけでなく、1の先にある活用先を探求することも重要だ」と述べる。研究開発においても、技術の面白さだけでなくビジネスとしての可能性を重視しているということだ。
新たなデジタル技術やツールを現場に導入する初期段階では、それが「何に使えるのか」「どのような効果につながるのか」という現場からの問いかけに度々直面した。そこで同社は、実際の活用事例を積み重ねることで、新しい技術の有用性に対する理解を広げてきた。導入スピードは現場によってばらつきがあり、「各現場にデジタル技術に精通した人材がいるかどうかが大きく影響する」という課題も明らかになった。現在では、より具体的な成功事例を示せるようになり、「この技術は、こういった部門のこんな課題に対して、こうやって活用できます」と提案できる段階まで進展。当初は最新テクノロジーに半信半疑だった現場の理解も、徐々に深まってきている。
「デジタル技術を導入する際は、『何ができて、どう助かるのか』という効果をわかりやすく伝え、現場のキーパーソンと密に対話することが重要です。特に、一般社員にデジタルユーザーとして新技術のスキルを習得してもらう場合は、本業に加えての負担となるため、メリットを明確に示して意欲を引き出すことを心がけています」(野村氏)