新たなデジタル・AIスキルを備えた人材も育成中
野村氏は、社内での生成AI活用の取り組みも紹介した。現在の古河電工は、生成AIの活用環境を整備はしたものの、全社的な認知度や活用度はまだ低い状況だという。そこで、各部門から推進メンバーを募り、活用事例や業務への適用方法を共有する「DX推進コミュニティ」を2024年から開始した。
このコミュニティのメンバーは各部門からの推薦と社内公募で集め、年齢や職種、部門内での立場を問わず多様なメンバーが参加している。メンバーにはコミュニティ内で生成AIなど先端技術についてリテラシーを高めてもらい、現場と情報技術部門をつなぐ「翻訳者(トランスレーター)」としての役割を果たすことが期待されている。
また、社内のポータルサイトに生成AIの活用に関する情報共有や学習のためのページを設置したり、効果的なプロンプト(AIへの命令文)の実践例なども独自にまとめたりと、全社での生成AI活用促進を図っている。
データに基づく“高速経営”の実現に向けた取り組みも紹介された。「ERPの刷新や、SFA(営業支援システム)などといった事業・目的別システムの導入が現在進んでおり、工場のエッジ領域におけるデータ収集の仕組みの構築も始まっている」と野村氏。特に経営データ面では、基幹システムと営業データの連携により、売上実績や予測のリアルタイムなダッシュボード化を実現。従来の週報による後追い型の管理から、日次での進捗管理が可能になっている。
製造現場では、これまでExcelや紙ベースでバラバラに管理されていたデータの統合が進められている。たとえば、歩留まり改善が必要な製品ラインでは、データを一元化して統計的な工程管理を実現。品質管理の知見をAIに学習させ、異常予兆の検知や製造条件の最適化を自動化するシステムを2024年夏から運用開始している。現在、その効果を検証中だという。
「材料開発の分野でも、機械学習(ML)による予測モデルの活用を始めています。たとえば電線の被覆材開発では、データを活用したプラットフォームの導入により、これまで3ヵ月かかっていた開発期間を半分程度に短縮できた事例も出てきています」(野村氏)
また、社内のデジタル人材育成については、“3層構造のアプローチ”を展開していると野村氏。最も専門性の高い「デジタル技術スペシャリスト」には、データサイエンティストやソフトウェアエンジニアなどが当てはまる。次の層は、高い専門性は必要としない一般社員の「デジタルユーザ」だ。両者とも社内公募や副業制度による既存社員の育成と、新卒・キャリア採用の両方で確保が進められており、セミナー、eラーニング、OJTなどを通じて技術力を向上させているとのことだ。
3つ目の層に当たる、事業部門と連携してデジタル化による課題解決を立案する「DXプランナー」の育成にも注力している。層ごとの育成プログラムは、IPA(情報処理推進機構)のデジタルスキル標準を参考に展開されている。こうした新たなスキルを備えた人材の評価については、「現在は全社の標準的な枠組みが適用されているが、今後はジョブ型評価の導入も視野に入れ、デジタル人材の特性に合った仕組みを検討していきたい」と述べた。
各所で身を結び始めている古河電工のDX。直近、取り組んでいきたい課題として野村氏は、「これまでは、エッジとシステムがそれぞれ独立して活動していたが、現在は徐々に融合が進んでいる。今後はこの2つの分野をさらに統合し、より良い形で全社をサポートできる体制を整えていきたい」と語った。