サントリーが実践したMLOps事例 運用時のポイントとは
実際の企業での機械学習プロジェクトにおける推進事例を見ていこう。今回は、本書の中からサントリーグループ(以下、サントリー)の事例を紹介する。
サントリーの事業は、ウイスキーやワインといった酒類事業、清涼飲料水、健康食品、花、外食など多岐にわたる。近年は、海外の売上が50%を超えており、グローバルな事業展開を進めているとのことだ。同社では「やってみなはれ」精神という価値観が重視されており、これがIT分野の様々な取り組みに生かされてきたという。
同社では、R&DやSCM(Supply Chain Management)、バックオフィスなど、様々な業務で機械学習モデルが活用されている。その一方で、それぞれの機械学習システムで利用されているソフトウェアや運用は統一されていなかった。加えて、それぞれのチームで専門知識のない人がシステム運用を行っているケースもあり、組織としてスケールさせることが困難という課題を抱えていた。
これらの課題を解決するため、同社は機械学習モデルを組織横断的に運用管理できるプラットフォームを導入。運用プロセスの中で、以下のような事柄を実施しているという。
- 監視・性能評価:ビジネス変化に基づくデータ傾向変化の検知
- 再学習:蓄積されたデータを活用した機械学習モデルの性能向上
- バージョン管理:機械学習モデルの更新と本番化
また、これらの運用を実践するにあたり、同社では機械学習モデルのモニタリングを横串で行うことを基本方針としている。機械学習モデルを開発する際は、業務内容などに応じて多様な機械学習モデルを使用する。開発体制においても、内製だけではなく様々なベンダー企業と手を組み、機能を作り込む場合があるだろう。
一方、運用時は、ランニングコストを抑えながらも上記のような機械学習モデル特有の取り組みが必要となる。そのため、画像分類モデルや数値予測モデルなどの個々のモデルに対して、共通のプラットフォームを用いながら、運用監視をしているのだという。
機械学習モデルの導入は、小規模PoCからスタートし、試験的に始める方法が有効だ。しかしそうなると、運用保守設計の作り込みまでは手が回らない可能性があり、結果としてモデルがメンテナンスされずに放置されてしまう。取り組み成果を維持し、組織的にスケールさせるためには、このような組織横断的なプラットフォームの導入が大切だ。活用が進んできた段階で、プラットフォームの構想・構築を行うことが効果的だという。
本書では、MLOpsの基礎的な知識を解説するとともに、MLOps実現に向けた取り組みを実践している企業の事例を数多く紹介している。これからMLOpsについて知りたいと考えている方はもちろん、他社での実践事例を参考にしながら自社にMLOpsを取り入れたいと考えている方にもオススメできる一冊だ。
事例でわかるMLOps 機械学習の成果をスケールさせる処方箋
出版社:講談社
発売日:2024年9月30日
価格:3,300円(税込)
本書について
機械学習の実利用で、本当にビジネスの価値を生み出すには?
技術・プロセス・文化の3面から学ぶ、「MLOps」はじめての実践ガイドが登場!
機械学習システムをビジネスに導入し、運用していく中での悩みによく効くノウハウが満載です。