世界中でIFRSをめぐる動きが活発化している中で、我が国は上場企業におけるIFRS導入を明言するとともに、会計基準としてIFRSの採用を検討中である。様々な目的を持つ企業が存在する中で、IFRSの導入は果たして、企業にとってのメリットとなりえるのだろうか。ここでは、IFRS導入のメリットを探るとともに、導入メリットをあまり受けない企業におけるIFRS導入の影響とその対処法、及び、インパクトが大きいとされる個別財務諸表に対してのIFRS導入の必要性を考察する。
IFRSをめぐる4つの動向
初めに、本題に入る前提として、現時点までの日本におけるIFRS導入に向けた4つの動向をみておくこととする。
①IFRS支持拡大
IFRSは2005年からEU域内における統一基準として採用されたことを皮切りに、世界100カ国以上での採用が予定されている。そのため、日本においても金融資本市場の将来を考える上で無視することはできない存在となり、適用検討の初期においては、コンバージェンスを通して日本基準とIFRSの同質性の確保を図った。
② コンバージェンスからアドプションへ
コンバージェンスによる対応を指向していたもう一つの大国である米国が、2007年に外国企業に対してIFRSでの財務諸表の提供を容認し、2011年までにすべての企業に対してIFRSの強制適用の判断を行うことを明言した。これを受けて日本もコンバージェンスだけでは世界的なIFRSの動向に対応できないことを認識し、アドプションへの方向転換を余儀なくされた。
③ 現行IFRSから新IFRSへ
現在、IASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)が共同で、新しいバージョンのIFRSとして、現行IFRSと米国基準のコンバージェンスを図っており、2011年6月までにその大半が完了する予定である。この動きに対して日本は、2012年に強制適用の判断を行い、2015年または2016年からの適用開始を予定している。
④ 中堅・中小企業版IFRS
中堅・中小企業のためのIFRSとして、完全版IFRSから中堅・中小企業に関連のない項目を省略し、要求する開示数を約10分の1に削減した「中堅・中小企業版IFRS」が発表された。ただし、現時点では日本における中小企業の会計基準である「中小企業の会計に関する指針」にどのような影響を与えるのかは不明である。
これらの動きを踏まえて、IFRS導入に向けての日本の現状をまとめると、IFRS採用の世界的な流れの中でIFRSを強制適用する方向性は固まりつつあるが、米国の情勢やIFRSの内容自体の変更もあり、適用範囲や適用時期、適用方法等の詳細部分については、まだ確定していないという状況である。
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高橋 正晴(タカハシ マサハル)
慶応義塾大学環境情報学部卒。税理士事務所勤務を経て、中堅・中小企業向け国産ERPパッケー
ジのシステムベンダーに入社。販売管理や会計管理のシステム設計と中堅・中小企業に対するシステムコンサルティングを担当。2004年に税理士登録。2009年にシステムベンダーを退社後、都内で税理士事務所を開業し、現在に至る...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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