KDDIとインテル・マイアミから見た、「HPEの強み」とは
基調講演では、HPEの顧客事例にも触れられた。
1つ目は、サッカークラブのインテル・マイアミCF(Inter Miami CF)が建設している最新のスタジアムMiami Freedom Parkの技術支援だ。131エーカーという広大なスタジアムにおけるWi-Fi環境の整備をはじめとしたネットワーク構築など、テクノロジー面から支援するという。
ネリ氏の基調講演では、会期中に発表されたKDDIとの提携にも触れられた。「KDDIは、1兆パラメーター規模の生成AIモデルの開発を加速するためにも、AI Factoryを構築する。われわれは、マルチラックのAIクラスタの設計・構築・実装を支援していく」とネリ氏。会期中、KDDI 執行役員 先端技術統括本部 先端プラットフォーム開発本部長の丸田徹氏はセッションに登壇し、大阪・堺で展開するAIデータセンターに「NVIDIA GB200 NVL72 by HPE」を導入すると発表した。

具体的には、72個のNVIDIA Blackwell GPU、36個のNVIDIA Grace CPUを搭載し、HPEの直冷技術を用いたラックスケール型となる予定だ。丸田氏によると、新システムの導入は大きな技術的挑戦になるという。特に1ラックあたり130キロワットという膨大な電力を必要とし、これは同社が持つ既存システムの10倍以上に相当するという。加えて、水冷システムの設備も課題だった。
そこで十分な電力と水冷設備があったことから、LCD事業撤退により不要になったシャープの工場を取得し、AIデータセンターとして再利用することに。「工場の再利用により、展開までの時間を大幅に短縮できる。2025年度中にもGPUインフラの稼働が可能になる見通しだ」と述べた。
また、AIを活用する領域として、自社モバイルサービスを利用する顧客(一般消費者)、法人向け、自社内部での運用最適化と大きく3つがあるという。顧客向けにはカスタマーサービスでのAI活用を考えており、4月に発表したGoogleとの提携により、GemmaやGeminiといったLLMも導入する。加えて、モバイルネットワークのデジタルツインを構築することで、障害の予防保全などを実現していきたいとも話した。
こうした早期展開の狙いに対し、大規模なAIクラスタ構築や液冷といった「HPEの技術力を頼りにしている」と丸田氏は述べた。
システムベンダーを目指すDell TechnologiesとHPE、それぞれの道
10周年を迎えたHPE、今年のHPE Discoverはハードウェアよりも、ソフトウェアやサービスにスポットを当てたイベントと言えるだろう。それでも展示フロアには、1.742エクサFLOPSの世界最速のスパコン「El Capitan」などが並び、ハードウェアの技術力が健在であることも示された。

ネリ氏は記者向けのQAセッションにて、「スパコンで磨き上げた先進技術をAIシステムに持ち込んでいる」と話し、先端技術への研究開発の投資が商用システムにも活用されるという、好循環を生んでいることをアピールする。
また、何よりも強調されたのはネットワークだ。Juniper Networks買収のタイミングもあってか、「ネットワークは、新たなイノベーションが起きているエキサイティングな分野だ。AIデータセンターにおいても、HPEは大きな潜在性をもっている」とした。
では、HPEのアイデンティティは何か──ネリ氏は「インフラカンパニー」だと断言する。
同じ言葉は、ちょうど10年前にEMC買収でエンタープライズ分野を強化したDell Technologiesのマイケル・デル(Michael Dell)氏の基調講演でも聴かれた(正確には、「DXに必要不可欠なインフラ技術を提供するベンダー」という言葉)。670億ドルでEMCおよび子会社を取得したDell Technologiesは、その後VMwareやRSA Securitiyなどを少しずつ切り離していった。これに対してHPEは、一旦ソフトウェア事業を売却してから、必要な技術を買収により加えていくという、まったく逆の戦略をとった。これと同時にGreenLakeブランドを早期に立ち上げ、クラウドにも対抗している。

当時のパブリッククラウド一辺倒だった市場は、ハイブリッドクラウド、そしてAIへとトレンドが変化している。今後、インフラベンダーとしての2社の動きは興味深いものがある。
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末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)
フリーランスライター。二児の母。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている。
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