コスト最適化だけでない、エンタープライズ市場への拡大に向けて
コンテナ化の推進においては、バッチ処理などの影響範囲が少ないものから切り出していくことで、少しずつ効率化を図っている。さらに組織運営にも変化をもたらしており、「コンテナ化したサービスについては、マイナーバージョンアップなどのメンテナンスコストがほぼなくなり、開発者に任せられるようになりました」と公手氏。クラウドネイティブ化の目標は、モノリシックなサービスをすべてコンテナ化することで、メンテナンスコストを大幅に下げることだ。
現在のインフラ運用チームは、約40人体制。稼働時間の約半分を学習時間に充てられるような業務効率化を狙う。最終的には、インフラに手間をかけることなく安定稼働させ、余剰の時間で次世代基盤の構築など、新たなチャレンジに踏み出していく。
「クラウドネイティブ・オンプレミスという思想のもとで開発・運用しているからこそ、仮にパブリッククラウドに移行するときが来ても、問題なく対応できるでしょう」
将来的には、この技術基盤をベースとして、エンタープライズ市場への本格展開も視野に入れている。公手氏は、「エンタープライズ企業にも受け入れられるだけのインフラを構築していきます。オンプレミスに収まりきれないものがあれば、柔軟にパブリッククラウドのリソースを用いられるような在り方を目指しています」と構想を描く。
さらに、M&A戦略を進めていく上でも、この方針は役立つという。多くの企業がパブリッククラウドを利用する状況下、合併・買収先の売り上げ規模が大きくなってインフラのコストが増加しても、ラクスのオンプレミス基盤に移行することも可能だからだ。
クラウドネイティブ・オンプレミスの取り組みは、単なる技術選択ではなく、経営戦略として必要となった概念とも言えるだろう。公手氏は「エンタープライズ市場を攻めていくからこそ、インフラ基盤も強化していく必要があります」と強調する。
もちろん、課題も残る。特にボトルネックとなるのは、アプリケーション側のアーキテクチャの変更だろう。また、新機能開発のようなビジネス側のニーズが強い領域に投資していくことを考慮すると、インフラ基盤の改修に大きくコストをかけられない場面も出てくる。そこで人材採用の強化、AIの活用を進めることで対策を講じていくという。
「開発チームが積極的に生成AIを使っており、リファクタリングなども、今後進めやすくなると期待しています」と公手氏。まだ、本格化したばかりのクラウドネイティブ・オンプレミス、単なるコスト最適化に留まらない価値をどれだけ発揮できるのか。

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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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