データを「宝の山」に変える人材とは? 段階的成長のロードマップ
データ基盤を整備する以前に、組織としてなかなか取り組めない圧力が存在するという点、技術的負債がそれをさらに抑圧するという点をお伝えしてきました。
しかし、冒頭でお伝えしたとおり、生成AIの進化や市場の関心ごとの変遷もあり、データを整備することに一定の理解や追い風がある時期ともいえます。こんな時に注意したいのは、データを活用しようとする人に求められる適性についてです。
データの扱いや品質を理解せずに、いきなり戦略文脈から、自社内のデータ活用を推進しようとすると、かえって組織の分断や施策の迷走、ひいては事業の低迷を招くケースがあります。
下図のように、データの活用は一歩間違うと、判断を誤り、仕事を増やし、不信から分断や錯綜を起こすという悪循環になります。存在するデータを元に何かを決めるのであれば、信頼できる基礎情報が必要です。多くの場合、まだ見えていない情報が多かったり、整備しきれないことでしょう。その場合は、今あるデータをこねくり回すのではなく、データが少ない中で活動し、データを蓄積していく必要があります。事業の解像度が高いリーダー・パフォーマンスの安定的な人材の仮説を頼りにしながらプロセスをつくり、基礎データを生み出すようなハイブリッドかつ地道な活動が再現性を生むための準備になるでしょう。

最後に、アナリティクス界のドラッカーとも呼ばれるThomas H. Davenport氏が提唱した「Analytics3.0」を元に、個人的な解釈を加えた図を記載しておきます。

かれこれ10年以上前ですが、Salesforce社が毎年サンフランシスコで開催する大規模カンファレンスで登壇されていたのを拝聴し、大変感銘を受けた内容です。IoTやAI時代を見据えた当時の、データ活用段階・ロードマップを示したものですが、現在でも通ずる考え方だと感じます。
生成AI活用、データドリブン経営、これらをするのに、必ずしもビッグデータや完璧なデータ基盤は必要ありません。
少なくとも現在は人が人へ事業活動を行っているのですから、今あるデータや状況を解釈し、意味のあるアクションを生み出し、顧客へ価値を提供し、収益を得るという活動の本質は変わりません。
意味のあるデータが記録される仕組み、可視化される仕組み、解釈し、アクションする仕組み……と段階をあげていくことで、自動化・効率化されていく部分はありますが、これを一足飛びにデザインすることは難しいと思います。テクノロジーで効率性だけをあげても、生産性の向上には限界があります。
企業がデータ基盤を持つことへの関心が高まっている今こそ、システムをつくるだけ、データを集めるだけ、分析するだけ、ではなく、「データが持つ価値、それを生み出すまでの過程、そこに至るリスクや障害、必要な投資」を認識・実行していくことが重要でしょう。
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佐伯 葉介(サエキヨウスケ)
株式会社ユークリッド代表。SCSK、フレクト、セールスフォース・ジャパンを経て、2019年にリゾルバを創業。2023年にミガロホールディングス(東証プライム)へ売却。著書『成果を生み出すためのSalesforce運用ガイド』(技術評論社)。一般社団法人BizOps協会エキスパート。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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