実装スキルより重要!「責任設計」がAI成功の鍵
この観点から見ると、2025年6月に発表されたAgentforce3.0は、まさに「責任設計」を支える進化だったといえます。Salesforce社の発表をもとに、いくつかかいつまんでご紹介します。
(Salesforce社記事:https://www.salesforce.com/news/press-releases/2025/06/23/agentforce-3-announcement/)
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コマンドセンター(監視機能)
OpenTelemetry準拠でログを解析し、DatadogやSplunkに連携可能。AIエージェントの活動をブラックボックス化させないための可観測性を実現。 -
ネイティブMCPサポート
MuleSoft経由で既存REST APIもMCP化でき、レガシーシステムとの接続を容易に。外部サービス連携時の副作用抑制や責任ハンドリングが可能。 -
Atlas推論エンジン強化
最大50%高速化、Web検索+インライン引用、Claudeや今後のGemini対応。可用性確保の自動フェイルオーバー付き。 -
課金モデル転換
FlexCreditを会話単位からアクション単位に変更し、ライセンスとクレジットを柔軟にスワップ可能。人件費とAgentコストを直接比較できる枠組みを提供。
これらは単なる機能追加ではなく、AIを企業のデジタル労働力として責任を持たせ、スケール運用するための基盤機能であり設計思想ともいえます。
そして、元々兼ね備えているマーケター〜インサイドセールス〜セールス〜CSと分担しながら顧客体験をサポートをする業務プロセス機能とデータモデルが上乗せされます。つまりパッケージとして予めプリセットされた顧客対応のコンテキストがビルトインされているわけです。(下図)

Salesforce社が提供しようとしているAgentforceは、エンタープライズ企業の既存のシステム環境をサポートし、AIでの変革を全社レベルでスケールするまでを見据えた1つのアーキテクチャを提案しているといえるでしょう。
とはいえ、いきなりAIに企業全体の統括を任せられるわけではありません。各社の事業特性や現行の業務プロセス、現行の他システムやSalesforce環境にも依存します。
現実的には、まずは個別業務の効率化や自動化といった、AI活用によるクイックウィンと経験値獲得を狙える領域から着手するのが得策でしょう。
既存のSaaSや業務システムも、それぞれ続々とAI機能を追加しており、日常業務の中でAI活用を試せる機会は増えています。Agent構築のデザインパターンや、MCP・A2Aなどのプロトコルはまだ覇権争いの途上ですが、この流動期こそ自社に合った活用方法を模索する好機ともいえます。
重要なのは、将来の「AIが人や道具を束ねる組織」像を見据えつつ、現行業務フローの標準化や関連データの構造整備を進めることです。
これにより、Salesforceのみに限らず、将来的に多様なAIサービスを組み合わせて使えるアーキテクチャの土台が築いていけるのではないでしょうか。
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佐伯 葉介(サエキヨウスケ)
株式会社ユークリッド代表。SCSK、フレクト、セールスフォース・ジャパンを経て、2019年にリゾルバを創業。2023年にミガロホールディングス(東証プライム)へ売却。著書『成果を生み出すためのSalesforce運用ガイド』(技術評論社)。一般社団法人BizOps協会エキスパート。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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