日本企業のSIer依存に潜むAI活用の落とし穴──Databricksの「データ+AI」戦略に迫る
年次イベント「Data+AI Summit 2025」で見えた“オープン性”へのこだわりと覚悟
歴史的課題に終止符──スケーリングできるオペレーショナルDB
Agent Bricksとともに、基調講演で大きな発表として注目されたのが「Lakebase」だ。Databricks フィールドエンジニアリング アジア太平洋地域 バイス・プレジデントを務めるNick Eayrs氏は、Lakebaseを「歴史的に分離していた分析用データベースとオペレーショナルデータベースの統合という、長年の課題に終止符を打つものだ」と述べる。
従来のオペレーショナルデータベースはスケーリングが難しく、細かな設定やチューニングが必要だった。こうした課題を踏まえ、Lakebaseはコンピュートとストレージを完全に分離することで、独立してスケールできるように設計されているという。これは、オペレーショナルデータをよりアジャイルに、迅速な仕事のフローに合わせて動かしていくことを可能にするとEayrs氏は話す。
また、Lakebaseはサーバーレス構成で提供されるため、使った分だけ課金される仕組みだ。Postgresベースで、Databricksのデータインテリジェンスプラットフォームと完全に統合されたオンライン・トランザクション処理(OLTP)データベースとなり、特に低レイテンシーでのダイナミック・プロビジョニングが求められるAIエージェントの世界において、必須の基盤になるという。

日本の「データ民主化」要望に応える“使いやすいUI”戦略
今回発表された数々の機能アップデートは、日本市場にどのようなインパクトをもたらすのか。データブリックス・ジャパンで代表取締役社長を務める笹俊文氏と、エンタープライズソリューション二部 部長の倉光怜氏に話を聞いた。
笹氏は、日本の顧客とパートナーに向けて特に発信したいメッセージの一つ目として、「Unity Catalog」を中心とするオープンなデータガバナンスの確立を挙げる。
Databricksが数年にわたり投資・開発を続けてきたUnity Catalogは「その存在意義が日本でも理解されるようになってきた」と同氏は語る。その核心は、オープンテーブルフォーマット(Delta Lake、Apache Icebergなど)を活用することで、データのガバナンスを一元化できる点にある。
基調講演のデモンストレーションでは、プライバシー情報にタグ付けを行うと、Databricksのソリューション上だけでなく、外部ソリューションを参照した場合でもマスキングが適用される様子が示された。笹氏は「データが宝」と言われながらも、ガバナンスの懸念から自由に活用できなかったという従来の課題を指摘し、「Unity Catalogを活用することで、このボトルネックの解消が期待できる。データをストレージに溜めつつオープンテーブルフォーマットの制御がしやすくなる」と述べた。
加えて、これまで「テクニカルなカタログ」というイメージが強かったUnity Catalogに、今回ビジネス的なメトリクスを管理する機能が追加されたことで、「技術面とビジネス面の両方からデータの利用を促進する統合的な基盤として、日本のユーザーにもイメージしてもらいやすくなったのではないか」と話す。
日本市場に向けたメッセージの2つ目として笹氏が挙げるのが「Lakeflow Designer」によるデータ準備の民主化だ。LakeFlow Designerは、データパイプラインの構築を簡素化し、PythonやSQLなどデータエンジニアリングの専門知識がないビジネスユーザーでも、自然言語などを用いてデータの準備ができるようになることを目指すもの。
笹氏は、「これまでは、データを準備するデータエンジニアと呼ばれるような人と、データを使うビジネスユーザーをDatabricksの機能上でも分けがちであった。Lakeflow Designerの登場によって、ユーザーの使い勝手の幅、裾野を広げていくという我々の方向性を日本のユーザーにも理解いただけたのではないか」と語る。
一方で、従来のUIがエンジニア向けに集約されたものであることから、多くのビジネスユーザーから「ビジーなUIは使いづらい」と言われることもあったという。この課題に対して、「今回、ビジネスユーザー向けに設計されたUIを『Databricks One』として発表できたことは意義がある」と倉光氏は強調する。洗練されたシンプルな操作だけをするユーザーに特化したUIが、Unity Catalogで制御された状態で活用されることで、ガバナンスを維持しつつ、データ活用の裾野を広げられることを示した。
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