ダッソーとNVIDIAがねらう「産業AIの覇権」 鍵は“世界モデル”とフィジルカルAIの実現に
「3DEXPERIENCE World 2026」現地レポート
3つの「AIバーチャルコンパニオン」を発表 CADもバイブコーディングの時代へ
3DEXPERIENCE Worldでは、SOLIDWORKSの新しい機能も発表された。
先述の通り、ダッソー・システムズが推進するジェネレーティブ・エコノミーにおいて、3D UNIV+RSESが基盤となり、同社が長年にわたって蓄積してきた設計データやドキュメント、製造ノウハウを仮想化することで「ナレッジの工場」を実現する。ここにアクセスするのが「AIバーチャルコンパニオン」だ。
同社は、2025年のイベントで「AURA」としてバーチャルコンパニオンを発表しているが、今回は「LEO」と「MARIE」が新たに加わった。AURAとあわせ、3つのコンパニオンが設計から製造、規制対応まで包括的にエンジニアリングワークフローを支援する。ダロス氏は「AIはエンジニアを置き換えるのではなく、エンジニアの能力を増幅させるものだ。エンジニアの知識やノウハウ、判断、経験こそが最も価値ある知的財産となる」と強調した。
AURAとLEO、MARIEは、それぞれ異なる専門性を有している。AURAは要件管理からプロジェクト管理、変更管理まで、ナレッジとコンテキストを統合する役割を担う。LEOはエンジニアリング推論に特化しており、力学や構造、モーション、シミュレーション、製造に関する専門知識を提供する。そしてMARIEは材料科学や化学、配合、規制といった科学的専門分野を担当する。なお、AURAは(Assisting You to Realize your Ambitions)の略で、LEOはレオナルド・ダ・ヴィンチ、MARIEはマリー・キュリーに因んだネーミングだ。
講演では、ダロス氏が3つのコンパニオンに「電動ハイドロフォイル(e-foil)ウィングにはどの材料を使うべきか」と問うと、AURAは「カーボンファイバーは強度、軽量性、耐水性のバランスが取れている」と一般的な回答を返したのに対し、LEOは「強度対重量比の最適化と流体抵抗の最小化が必要。エポキシ樹脂を使った一方向カーボンファイバー複合材が、剛性と疲労耐性の面で理想的」とエンジニアリング視点で答えた。
また、MARIEは「密度、弾性率、水による劣化への耐性が重要な要素。カーボンファイバー強化ポリマーは密度1.6g/cm³で引張強度に優れている」と材料科学の観点からデータを提示。このデモンストレーションを踏まえ、ダロス氏は「イノベーションは異なる視点の対立から生まれる。これがバーチャルコンパニオンによる協働の仕組みだ」と説明する。
続いて、SOLIDWORKSのCEOであるマニッシュ・クマール(Manish Kumar)氏が登壇すると、LEOの能力をライブデモで披露した。
PDFの2D図面をクリップボードに貼り付けると、LEOは自動的に図面を解析。タイトルブロックやアイソメトリックビューを除外しながら、スケッチとして保持すべきセグメントを識別してみせた。さらに、すべての寸法を自動抽出すると、編集可能な状態で表示してくれた。
クマール氏が「スケッチを作成」と指示すると、LEOは数秒で完全パラメトリックな3Dモデルを生成。同氏は、「これは過去の膨大な設計データに基づいて学習したモデルだ。完全にパラメトリックな状態で寸法を変更できる」と説明する。
続いて、「このパーツに対して性能解析を実行できるか」と尋ねると、LEOは線形静的有限要素解析(FEA)を実行し、応力分布を画面に表示した。従来ならメッシュ生成や材料特性の定義、境界条件と荷重設定、ソルバーによる計算実行などが必要だったが、実験計画法を使って類似パーツを大量に作成・学習させたサロゲートモデルにより数秒で完了するとクマール氏は強調する。
他にも、ウェアラブル医療機器の落下試験シミュレーションなど、「従来は深い専門知識が必要だったが、AIがガイドして荷重や拘束を設定し、物理的整合性を保ちながら解析できる」とした。特に規制対応が重要となる医療機器分野では、LEOが規制に関するドキュメントを読み込むことで要件を自動生成し、システム要件や設計コンポーネントへのトレーサビリティリンクを提案してくれるという。
水槽支持用の鋼構造フレームの設計デモでは、「円筒形の水槽、最大容量50万リットル、最小直径○○、最大直径○○」といった仕様をLEOに入力すると、わずか数分で複雑な鋼構造フレームを設計し、荷重条件下でのシミュレーションまで完了した。
プレス向けのセッションでは、テスト中の機能として「Vibe CADing」が披露された。テキストまたは音声により話しかけるだけでモデリングできるというもので、CADコマンドは一切使用しない。「100cm×20cmの形状を作って」「垂直エッジを選択して」「上面に穴を追加して」「側面に穴を追加して」と指示すると、3Dモデルを作成してくれる。
クマール氏は、「われわれはユーザーが図面を描いたり、何かを作成したりするためのツールメーカーだった。今後は、ナレッジとノウハウの“工場”をつくる存在になる」と強調するのだった。
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末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)
フリーランスライター。二児の母。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている。
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