BIだけでは不十分、FP&Aにも通ずるアプローチが必要に CFO組織に足りない「収益性を見通せる共通言語」とは
多くの企業には、会計データ、予算データ、販売データ、顧客データ、人員データ、商品データ、拠点データ、各種の事業KPIなど、大量のデータが存在している。つまり、問題は「データの量」ではない。それらを、全社で合意された“収益性の見方”に基づいてつなぎ、経営判断に使える状態へ変えられているかである。
PL(損益計算書)を見ることができても顧客セグメント別の採算が見えない、売上は伸びていてもチャネル別の限界利益がわからない、拠点別の売上は把握できても固定費・人員配置・商圏人口・設備老朽化を踏まえた将来収益性までは捉えられていない……こうした状態では、CFO組織は過去の数字を説明できても、将来の打ち手まで設計することは難しい。
この問題を整理したものが下図である。財務・会計DXによって「効率化」「可視化」まで進められても、「分析」「意思決定」まで接続されなければ、経営判断には十分つながらない。
CFO組織は、“データ基盤の所有者”ではなく「判断基準の設計者」
ここで重要なことは、CFO組織が全社データ基盤の所有者になる必要はないという点だ。データ基盤の構築には、IT部門、データ部門、CDO組織、事業部門の関与が不可欠である。CFO組織が単独でデータを集め、システムを作り、全社のデータマネジメントを担うべきだという話ではない。
一方、CFO組織が主導すべき領域は明確に存在する。それは、経営判断に用いる「判断基準」を設計することだ。事業別の収益性を見る単位、顧客別採算を捉える利益指標、共通費や固定費の扱い、投資判断で重視する指標、撤退基準の定義といった前提が部門ごとに異なれば、営業部門や事業部門、経営企画部門、財務部門が同じ「利益」を語っているようでも、議論は噛み合わない。CFO組織の重要な役割は、全社で議論できる収益性の共通言語を作ることにある。
BIだけでは、意思決定の前提は揃わない
判断基準を設計する上で、BIは有用なツールである。ダッシュボードによって、売上、利益、費用、予算差異を迅速に把握できるからだ。しかし、BIは既に存在する数字を可視化するための道具であり、数字の意味や判断基準を自動的に揃えてくれるわけではない。商品コードや顧客コードが部門ごとに異なり、会計上の組織単位と事業運営上の組織単位も一致していない、あるいは共通費配賦の考え方が曖昧なまま、営業部門は売上、財務部門は利益、事業部門は稼働率を見るといった状態でBIを導入しても、可視化される数字が増えるだけで、意思決定の前提は揃わない。
重要なことは、BIで数字を見せることではなく、その前提としての収益性をどのような単位で捉えるかを設計することである。先述した収益性データモデルとは、財務データと事業KPIを接続し、事業別、顧客別、商品別、チャネル別、地域別、拠点別に採算を判断できるようにするための共通設計だ。
こうした考え方は、近年CFO組織で注目される「FP&A」とも重なる。FP&AとはFinancial Planning & Analysisの略であり、財務計画・予測・分析を通じて経営判断を支援する機能を指す。日本CFO協会は、FP&Aを分析、予測、計画策定、業績報告を通じて経営や事業の意思決定プロセスに貢献する機能として説明している[2]。また、米国の財務専門家団体であるAFPでも、FP&AをCFO組織内で戦略的意思決定を支援する機能と位置づけている[3]
こうした考え方をCFO組織の実務に落とし込んだものが下図である。ここでは収益性データモデルを「財務・会計データ」「事業KPI」「経営マスタ」「将来変数」「意思決定」という、5つのレイヤーで整理した。
たとえば、足元では黒字の拠点を継続するべきか判断する場合、財務・会計データだけを見れば「利益が出ている拠点」と評価されるかもしれない。しかし、表2のレイヤーに沿って、拠点別PLや固定費に加え、来店客数、稼働率、人員充足率、商圏人口、設備更新費用、人件費上昇率を組み合わせると、将来収益性の見え方は変わる。現在の利益だけでなく、将来の収益ドライバーとコスト増加要因を重ねて見ることで、継続、縮小、移転、追加投資といった判断につなげやすくなるのだ。
[2] 日本CFO協会「FP&A公式サイトより『FP&Aとは』」
[3] The Association for Financial Professionals「Financial Planning & Analysis(FP&A)」
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永尾 裕樹(ナガオ ヒロキ)
レバレジーズ・コンサルティング・グループ株式会社
シニアパートナー/デリバリーグループ責任者大手信託銀行、大手コンサルティングファーム等を経て現職。金融機関、エンターテインメント、公共・官公庁、出版・情報サービスなど、幅広い業界のクライアントに対し、戦略、業務改革、IT構想・導入、プロジェクトマネジメント...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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