GitHubと米国行政機関に学ぶ「ITSMのAI活用術」──問い合わせ対応の自動化で価値創出へ
Zendesk導入でITサポート業務はどう変わったのか? ユーザーが実体験とノウハウを明かす
社内ヘルプデスクやIT部門におけるAIの導入は、いまやPoCの段階を超え、実務での活用へとシフトしつつある。しかし、「導入したものの期待通りの解決率に至らない」「ナレッジが整備されずAIの誤回答や管理コストに悩まされている」という壁に直面している組織は少なくない。Zendeskが開催した年次イベント「Zendesk Relate 2026」では、これらの課題を乗り越え、着実な成果を上げている組織の取り組みが公開された。本稿では、世界最大級の開発プラットフォームを提供する「GitHub」と、リソース不足や厳しい法的制約に縛られる「公共・教育セクター」の2つの先行事例を紹介。単なるツールの導入にとどまらず、ナレッジの整備、エラー時のリカバリ設計、既存システムとの統合、そして組織全体の合意形成にいたるまで、現場で泥臭く培ってきた実務ノウハウをレポートする。
GitHub:最初の1年でZendeskに移行、月間6万件を自律処理
世界中に散らばるエンジニアや従業員を支えるGitHubのITサポート部門は、ZendeskのAIエージェントと既存システムを統合し、月間6万件以上もの社内チケットを自律的に管理・処理しているという。ITサポート マネージャーのスタンリー・アヴェリーノ(Stanley Avelino)氏は、GitHubでのITサービスマネジメント(ITSM)の歩みを次のように振り返る。
「私たちはもともと、IT専用の管理ツールを持っていませんでした。そのため、初期のころは自分たちの製品であるGitHubリポジトリをそのままITサポートのワークフローやユーザー対応に使っていたのです。GitHubはエンジニアリングのコラボレーションツールとしては優れていますが、規模拡大に耐えうるITSMツールとして設計されたものではありません。そのため、運用の限界を迎える前に最初の1年でZendeskへ移行を決断しました」(アヴェリーノ氏)
(左から)Stanley Avelino, Senior IT Support Manager, GitHub, Inc.
Sheldon Grimm, Application Product Analyst, GitHub, Inc.
Aaron Rylaarsdam, Senior Manager, Business Systems, GitHub, Inc.
アヴェリーノ氏らが掲げた戦略は、「従業員が普段の業務で使っているコミュニケーションツール上でサポートを完結させること」であった。GitHubでは全チケットの85%がSlack経由で起票されるため、ZendeskとSlackをシームレスに統合。これにより、従業員はSlackの画面から離れることなく疑問を解決できるようになり、ITサポートチームにとっても信頼できる情報源として確立され、一貫したサポート提供が可能になったという。
Workdayとの日次同期で、画面の行き来を削減
GitHubの自動化戦略において、ビジネスシステムズ シニアマネージャーを務めるアーロン・ライラースダム(Aaron Rylaarsdam)氏のチームが構築した、人事管理システム「Workday」とZendeskの統合は大きな役割を果たしているという。
ライラースダム氏らは、Workday内の従業員データ(氏名、所属、ロール、デバイス情報など)をZendeskのユーザーフィールドへ自動で日次同期する仕組みを構築した。これにより、IT担当者がチケットを処理する際、従業員のバックグラウンドを確認するために別の人事システムへログインして画面を行き来する手間を排除。ライラースダム氏はその効果を次のように説明する。
「新しい従業員が入社するより前に、ハードウェアの調達プロセスの一部としてZendesk側には人事データが格納されるようになっています。私がZendeskの管理者として12年間システムに携わってきた中で、現在のZendeskはAPIやコネクタ、カスタムオブジェクト、アクションフローを用いた外部連携が容易になっています。システム間の統合が進むほど、エージェントが情報を探し回る時間はなくなり、より多くの時間を実質的な解決に充てられるようになるのです」(ライラースダム氏)
ヘルプデスク対応に「Auto Assist」導入で、満足度98%
さらにGitHubでは、Zendeskが提供するAIアシスタント機能(エージェントCopilot)の一部である「Auto Assist」を本番環境に導入した。これは、ベテラン担当者が頭の中で行っている「次はこのツールを開いて、この手順で処理する」という対応プロセスを、AIがチケットの内容を読み解いて手順書(ToDoリスト)として自動生成し、エージェントの画面に提示する機能。これを本番環境に導入したことで、新入社員のオンボーディングにともなうITヘルプデスク対応において、CSAT(顧客満足度)98%という成果を上げたという。アプリケーションプロダクトアナリストのシェルドン・グリム(Sheldon Grimm)氏は、Auto Assistの導入効果について次のように語る。
「かつての新入社員対応では、WorkdayからOkta、Slack、さらにはハードウェアベンダーの調達サイトに至るまで、IT担当者がいくつものブラウザタブを行き来しながら、手作業でアカウント設定やデバイス配備を行う必要がありました。しかし、Auto Assistとアクションフローを組み合わせたことで、IT担当者は単一のチケット画面からワンクリックでハードウェアの発注、システムのプロビジョニング、アクセス権限の付与を実行できます。これは、チーム全体の負担を引き下げることにつながりました」(グリム氏)
しかし、この自動化プロセスは一朝一夕で完成したわけではない。GitHubのITチームが数々のテストや検証を通じて確立したものである。実務ハックとして次の3つを挙げた。
1. 30ステップのリカバリーパスを事前設計
AI手順書の設計において、すべてのプロセスが完璧に進む場合のみを想定していると、システム間の認証エラーやデバイスの在庫切れといった不測の事態が起こるとAIの動作は停止してしまう。 アヴェリーノ氏らは、「テストを徹底的に繰り返すことが成功の鍵」とした上で、システムが何らかのエラーに直面した際、AIが自動でループを回避して代替プロセスを実行できるよう、最大30ステップにわたる失敗時のリカバリーパス(条件分岐)をあらかじめ手順書内に詳細に記述する手法を編み出した。
2. 「最大4つ」の推奨アクション数の制限をマクロで回避
Zendeskの仕様上、Auto Assistが1回の手順書内でエージェントに提示・実行できる推奨アクション数は「最大4つ」に制限されている。しかし、GitHubの複雑なオンボーディングワークフローでは、この制約に引っかかってしまう。 これを回避するため、GitHubはAuto Assistに直接個別のAPIアクションを埋め込むのではなく、複数の処理をあらかじめ束ねた「Zendeskのマクロ」を1つの推奨アクションとして呼び出すというアプローチを採用。これにより、仕様上の制限を回避しながら、一連の自動化フローを完結させたという。
3. リッチテキストを用いたプロンプトエンジニアリング
グリム氏は、AIへの指示書をプレーンテキストで記述するのではなく、「絵文字やボールド体、見出しなどのリッチテキストフォーマット」を積極的に用いるべきだとアドバイスする。フォーマットを視覚的に構造化することで、Zendeskのサイドパネル(Context Panel)に表示された際にエージェント側の視認性が向上するだけでなく、AIモデル自体が命令の優先順位や階層構造をより正確に理解し、解釈のブレが削減されるためとした。
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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