元良品計画会長・堂前氏が語る「作業員としての人間」の終焉 AI時代に“自律型組織”をどう実現する
HRBrain Unite 2026:「仕組み」と「感性」の両輪で実現する、AI時代の人的資本経営
AI時代での「人間への再投資」 これからの組織デザイン
堂前:スキルを身につける前に、そもそも自分が何をできるようになりたいのか、どのようなアウトプットを生み出したいのかを考える。そして、その環境を企業も用意することが最初の一歩だと思います。昔は、入社したら数字目標を与えられて「取ってこい」と言われる。それは、営業を作業員として頑張らせるやり方であり、今はそのような時代ではありません。新卒であっても、チーム全体のゴールは何か、自分は今これだけしかできないが来年にはこうなる、5年後はこのように貢献しよう、という思いをもてるかどうか。そうした議論を青臭くできる場に、しっかりと投資することが大事です。
堀:目標の立て方にはOKR(Objectives and Key Results)など、さまざまあります。本当に大切なことは、(透明性を担保しながら)ビジョン、経営戦略、戦術について一人ひとりが自分の言葉で解いていけること。それを面倒がらず、すっ飛ばさず、しつこくやり続けて情報の非対称性を下げていく。AIがすべての仕事を再定義していく中で、“知的胆力”、時に自己否定もいとわずに、自分自身を高めていけるような企業文化がますます大事になります。経営やコストといった観点から働きかけをしがちですが、それではダメです。一人ひとりの成長を出発点として、対話していくことが重要です。

堂前:昔の企業は、与えられたことをしっかりとこなせば評価される。そうした形で伸びてきました。それがインターネットの登場以降、変わってきた。かつては情報が共有されず、上層部だけが多くを知っていた。今はトップも入社1年目も、ほぼ同じ情報が得られる。だとすれば、全員が同じ情報を持ち、同じ判断を下せる前提で組織を組み立てるほうが良い。もちろん、経験が役に立つこともあるが、通用しないこともある。そうした前提をもつことも大事だと思います。
堀:だからこそ、リアルなコミュニケーションは非常に大事です。当社でも、コロナ禍の大変な時期を除けば、基本的には顔を合わせながら働いてきました。たとえば、面接でも実際に会うことで人となりが分かる。テキストだけだと心理的な強度が下がり、その裏にあるニュアンスや表情、文脈も伝わりにくい。十数年以上、新卒採用の面接をしていますが、最近の学生は業界やテクノロジー、競合企業にも驚くほど詳しい。それがスタンダードとなると差別化が難しく、プラスアルファで何を伝えられるのかが問われていると感じます。
堂前:オンラインでは表情が伝わらず、一方的になりがちで、大人数だと喋るだけで終わってしまう。だからこそ今、少人数でしっかり話し合うことが必要です。データとしての情報に非対称性はなくなりましたが、本質的な疑問をもって納得できるまで突き詰めるような情報共有は、簡単に実現できない。だからこそ、そこに価値がある。中途採用の面接でも、私は社長になる前からずっと一次面接を担当してきましたが、大事にしていたことは強みを見極めることよりも、その人のビジョンと会社のビジョンが合うかどうか。もし、ビジョンが合うならば頑張れそうか、互いに貢献できそうか。それこそが面接だと思っていました。
他にも店長会議を月に一度、約500名を東日本・西日本で半分ずつ集めていました。店長たちが何を考え、何に悩んでいるのかを話してもらって部長・役員が答える。そのやり取りを聞いた現場担当者が「自分の基準は合っていた/間違っていた」と振り返り、明日から自信をもって頑張ろうとなる。指示を徹底することが難しい時代だからこそ、データの共有に時間を使うのはもったいない。価値基準やビジョンの共有にこそ、時間を使うべきだと思います。今後の組織は、スポーツチームのキャプテンとメンバーのような感覚で、全社員が自律的に動く形になっていくのではないでしょうか。
堀:そのお話とひもづくことで、「管理」というキーワードから脱却することが非常に大事だと思っています。選択肢が多くある中、この企業こそが自分の居場所だと思ってもらい、貢献したいと思ってもらう。その理由づけのために、仕組みも人為的なサポートも含めて貢献していきたい。
堂前:今日は説教くさいことばかり言いましたが、人事の話は制度や仕組みが中心になりがちです。しかし、人事の中心は一人ひとり、個々の人間だと思います。個々人がちゃんと成長し、会社で成果を出せるようになること。それこそが人事部門における最大のミッションです。制度を入れるといったことは、あくまでも道具でしかない。AIや情報処理が進む時代だからこそ、一人ひとりの能力が個々人のやりたいことにつながるように、個人がどれだけ成長するかが大切です。インセンティブや人事制度は二の次だ、と思ってもらえる時代が来たらいい。そう願っています。
堀:当社は、パーパスとして「企業はますます人なり」という言葉を掲げています。これを実現していくためにも、個人のWillをいかに引き出し、それを会社の成長につなげ、重なる部分をいかに大きくしていくか。それこそが、これからのリーダーの仕事そのものだと思います。私たちも、そこを一生懸命、支援していきたい。さまざまな場面で皆さまとお会いし、ディスカッションできることを楽しみにしています。
この記事は参考になりましたか?
- EnterpriseZine Press連載記事一覧
-
- 元良品計画会長・堂前氏が語る「作業員としての人間」の終焉 AI時代に“自律型組織”をどう実...
- GitHubと米国行政機関に学ぶ「ITSMのAI活用術」──問い合わせ対応の自動化で価値創...
- 非ITエンジニアが月10万円から始動、SUBARUに学ぶ生成AIとマルチエージェントの現場...
- この記事の著者
-
岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
