フィジカルAIを工場で大規模展開するには「〇〇が足りない」 注目テック3社が米国で社会実装の壁を議論
AMD Advancing AI 2026 現地レポート Vol.4【フィジカルAI・分科会編】
自律型AIがロボットという“身体”を手に入れ、産業の現場で運用されるフィジカルAI時代が迫っている。しかし、寸分たりともミスが許されない工場などで大規模に自律型ロボットを動かすためには、解決すべき課題が山積みだ。AMDが米国サンフランシスコにて2026年7月に開催した「Advancing AI 2026」の期間中、とある分科会で産業用オートメーションのボッシュ・レックスロス(Bosch Rexroth)、エッジコンピューティングのテック企業であるmimik、ヒューマノイド開発のスタートアップであるFoundationという、それぞれ異なる技術分野でフィジカルAI実装を手掛ける3社が議論を交わした。
“筋肉”と“神経系”によって動く工場に、AIが「脳」をもたらす
エイミー・デオスタリ氏(AMD):まず、マイクさんに伺います。ボッシュ・レックスロス(※1)は、産業用オートメーションや機械制御といった、決定論的に稼働する環境ともいえる「工場」に実装する技術を手掛ける企業ですよね。御社の視点から、AIが産業をどう変えつつあるのか、考えを聞かせてください。
※1 ボッシュ・レックスロス(Bosch Rexroth):ドイツのボッシュ・グループで、産業用オートメーションや制御技術を手掛ける。油圧機器、電動ドライブ、リニアモーション(直動技術)、組立技術をはじめ、工場の自動化や建設・産業機械などの分野を支えるシステムやソリューションを提供する企業。
マイク・ラーベ氏(ボッシュ・レックスロス):ロボティクスの文脈で言えば、私たちが手掛けるのは“筋肉”の部分です。伝統的に制御、モーション、ドライブを担う専門家であり、世界のどこかで高速に、あるいは非常に高い精度で動いているマシンがあれば、その多くにはきっと弊社のドライブが入っているでしょう。
従来のオートメーションは、極めて階層的でした。上位に基幹システムがあり、その下に製造実行システム(MES)があります。そして、タスクはあらかじめプログラムされた形で下流へと流れていきます。しかし現在、AIがそこに知能(インテリジェンス)を注ぎ込むことで、決定論的だった制御の原理そのものが変わりつつあります。また、AIによって連携され、統合的に制御される機械群が生まれています。
そこでボッシュ・レックスロスは、「ctrlX OS」というシステムを開発しました。これは、オープン標準に基づくLinuxベースの産業用オートメーション向けオペレーティングシステムになります。AI時代で特に注目いただきたいのは、データ集約の機能です。異なるアプリケーションや産業用コンピューター、外部デバイスのデータを一元的に収集・統合・交換できます。すべての機械へ即座にアクセスし、リアルタイムでデータを共有しながら、エッジやコンピューター上でAIを動かせるのです。
デオスタリ氏(AMD):つまり、AIは脳の役割を、機械やロボットは筋肉の役割を果たし、「脳が筋肉を制御する」ということですね。さらにボッシュ・レックスロスは、神経系とも言える制御の部分も担っていると。
現場稼働の生命線をAIが握ってよいのか? エッジAIに見出す活路
デオスタリ氏(AMD):次に、フェイさんにお聞きします。AIの実装により、言うなれば従来のような「固定的な自動化」から、「目標ベースの自動化」へとシフトしつつあります。ハイブリッドエッジクラウドの企業であるmimik(※2)は、この変化に対しどのような役割を果たすのでしょうか。
※2 mimik Technology:ハイブリッド・エッジクラウド・コンピューティングの技術を手掛けるソフトウェア企業。従来のような中央のクラウドに依存する仕組みではなく、エッジ(端末)で直接データを処理したり、相互通信させたりするための開発・運用基盤となるプラットフォームを提供する。
フェイ・アルジョマンディ氏(mimik):mimikは、産業オペレーションの自律的(エージェンティック)な運用を可能にする存在です。賢いAIモデルを作る技術や、それを動かす強力な計算資源(GPUなど)は、既に十分なレベルに到達しています。しかし、現場での実用化となると、研究や技術開発とは事情が変わってきます。
デオスタリ氏(AMD):どんな問題が起こるのでしょう?
アルジョマンディ氏(mimik):単にAIモデルの性能を証明するだけなら、計算やタスクは1回きりです。しかし、それをノンストップで稼働する産業の現場に組み込んで「運用」するとなると、終わりのない複雑なループが発生します。24時間365日、エッジから新しいデータが流れ込み続けるわけです。AIは常にそのデータを受け取り、推論し、アウトプットを出し続けます。
そんな無停止のAIエージェントを、どこで動かせばよいのでしょうか。すべてを中央のクラウドで動かせば、常に膨大な負荷がかかった状態となり、遅延やコスト増を招きます。また、AIエージェント同士が、クラウドを介さずにどうやってお互いを発見し、協力し合うのでしょうか。加えて、AIの賢さや性能に劣化がないかを常に測定・維持することも必要です。場合によっては、AIモデルを差し替える必要性が生じるかもしれません。そのとき、システムは一時的にすべて止まってしまうのでしょうか。
さらには、AIが自律的に意思決定とオペレーションのループを回し続ける以上、企業の法的責任や安全性へのコミットメントが問われます。データや意思決定の主権(ソブランティ)も確保しなければなりません。そしてもう一つ、通信が途切れてオフラインになってしまったらどうするのでしょう。AIのループが止まり、事業が停止してしまうかもしれません。あるいは、大事故につながるかも……。
こうした問題に対し、mimikはハイブリッド・エッジクラウド技術をAI専用に進化・最適化させたプラットフォームを開発しました。エージェントをエッジデバイスの中で動かし、デバイスをまたぐ移動を可能にし、デバイスを越えて互いを発見し、協調できる仕組みです。言うなれば、エージェンティックワークフローの運用エンジンです。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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