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シミュレーションと現実を隔てる“千の切り傷”とは?

デオスタリ氏(AMD):サンケートさんは以前、「Sim-to-Real(シミュレーションで学習させた成果を実機へ移す取り組み)は、雑然とした実世界に出るまでは解ききれない」とお話ししていましたよね。ロボットを学習させる際の課題について教えてください。

パタック氏(Foundation):Sim-to-Realでは、「千の切り傷による死(致命傷は一つもないのに、小さなズレが積み重なって止まってしまうこと)」のようなことが起こり得ます。シミュレーションと現実の間にズレを生じさせる要因は、それこそ1,000通り以上あります。

 多くの人は、まずシミュレーション環境や、ロボットの正確な物理モデルを気にするでしょう。ただ、この2つは解決しやすい部類の問題です。ベンダーが適切なデータシートを出してくれるため、データの欠落は割と簡単に埋められます。

 難しいのはその後です。遅延のプロファイリング、センサードリフト、そして環境の変化……。たとえば、摩擦の特性などは天候によっても変わります。そして最も押さえにくいのは、電子回路から積み上げるスタック、つまりセンサーと通信、その処理、その間に挟まるソフトウェアです。ここから遅延とジッター、デッドロック、リソース競合による連鎖的な障害が生まれます。

デオスタリ氏(AMD):考慮すべき要因が数えきれないほどありますね。

パタック氏(Foundation):操作・マニピュレーションの問題もありますよね。シミュレーションは接触の物理をまだそれほど上手く扱えないし、エンドエフェクター(ロボットの手先)の大半は接触を現実世界で把握できるセンサーを持っていません。位置検出やIMU(慣性計測装置)が実装されている現代のロボットも、振動やグリップを感じ取る画素型のセンサーは、手足には備わっていないのです。

 そこでFoundationは、「Skywalker」という次世代ハンドを開発中です。片手あたり約26個のモーターと、位置検出をともなう全面的な触覚センシングを備えています。ロボット全体の駆動部が約29個ですから、両手だけで全身を上回る数のアクチュエーターを持つ計算になります。実世界におけるデータの課題がありますが、同時にこれは、地道なセンサー処理の課題でもあります。

デオスタリ氏(AMD):ロボットの自律的な意思決定と、ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop)のバランスはどう取るのでしょうか。

パタック氏(Foundation):ユースケース次第です。たとえば、自動車製造の資材ハンドリングであれば、何らかの介入が必要になる場面を除けば、人間があまりやりたがらない反復作業です。だから、人間は必要な時だけ介入すればよいでしょう。

 ただ、もっと動的な領域ではどうでしょうか。たとえば、私たちが手掛ける軍事用ロボットでは、1人のオペレーターが5台のロボットを制御します。私たちはそれを「ノード」と呼んでいて、1つの包括的な指令が、呼び出し可能な複数のロボットへ割り振られる仕組みになっているのです。

 それから、私たちが「自律」という言葉を使うとき、それは必ずしも任務の遂行を指していません。現状、軍事ロボットが任されている仕事の多くはロジスティクス、つまり物資を運ぶことです。報道ではあまり取り上げられませんが、たとえばウクライナでは、塹壕や穴のような場所で暮らす人々に食料や医薬品、弾薬を届けるためにロボットが使われています。いずれも複雑なロジスティクスのワークフローで、GPSが妨害され、常時つながる通信も確保できない環境下です。だからこそ、あらゆる段階で人間が関与しなければなりません。

デオスタリ氏(AMD):なるほど。

パタック氏(Foundation):しかし個人的には、遠隔操作のロボットが大量に配備される未来には与しないつもりです。ヘッドセットで手や足の動きを追跡させ、ロボットになりきって別の場所で動作させる方式は、接触の多いラストマイルのデータ収集には向いていますが、大規模に展開するには不向きです。少なくともFoundationの場合、ユースケースの大半は、反復的なワークフローをほぼ完全に自動化するようなものになるでしょう。動作する頻度が高ければ、指令室に人間が張り付く必要があるし、そうでなければ張り付かなくてもよい。8時間ぶっ通しで部品を仕分ける作業には、それ以外の目的はありませんからね。

電動キックボード問題の教訓すら活かせてないのに……自律型ロボットの社会実装前に解くべき課題

デオスタリ氏(AMD):自律型AIによる持続可能なロボットシステムを、工場で数百万台の規模へ広げるために解決すべき課題は何か。最後に一言ずついただけますか。

ラーベ氏(ボッシュ・レックスロス):第一に、安全な自律性の確保です。機械が自律的になるほど、安全に気を配らなければなりません。第二に、異なる機械・ロボット同士のオーケストレーションと、それらが話すための“共通言語”です。そして第三にサイバーセキュリティ、第四にライフタイムの尺度です。ロボットは消費財ではなく設備投資するものですから、10年、15年と生かし続け、更新し、安全な状態を保つ必要があります。

アルジョマンディ氏(mimik):まず私は、ここでも話題にしたアーキテクチャの課題を挙げます。そのうえで、企業が自律的なソリューションを採用するためには、柔軟性と制御、そして確実性をシステムに実装しなければなりません。運用者が柔軟にモデルを切り替え、実行し、他のものと相互運用できること。また、運用のあらゆる側面を測定できること……。今日、毎秒トークン数に注目が集まっていますが、それが教えてくれるのは、あくまでも「私がどれだけ速く話せるか」という点だけです。しかし、ワークフローは「それが成果に結びついたかどうか」を教えてくれます。どれほど速く話しても、誰にも理解されなければ何も達成できていないのと同じです。

パタック氏(Foundation):私が1つ目に挙げるのは信頼性です。安全性もその一部です。倒れず、止まらず、常に期待通りの動作をするロボットを作る。この種の問題は長期目線で考えなければならず、そこへ到達するのは極めて難しいですが。

 2つ目に挙げるのはサイバーセキュリティです。生成AIの進化もあり、ロボットを妨害したりハッキングしたりする手口は今後、どんどん新たなものが出てくることでしょう。Foundationのロボットも、現在は人がほとんどいない屋外か製造セルの中で動いていますが、ヒューマノイドが活躍の幅と規模を広げれば、街中を私たちと並んで歩くようになりますよね。その際にも、電波の妨害、物理的な乗っ取り、勝手な改造などといった懸念事項への対策をすべて考えなければなりません。

 社会への実装を考える際に顕在化する問題への対処は簡単ではありません。実際、私たちは電動キックボードの普及で起こった破壊行為や、投じたコストから得られるはずの学びをまだ十分に消化できていませんよね。同じことが、ロボットではより深刻な形で発生するはずです。

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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