楽楽クラウド拡大を支えるラクス内データ分析基盤の真価──管理会計領域から始めるAIとデータの民主化
業務システム部が創るデータ活用の未来――BigQueryからAIエージェント検証まで
データ活用の民主化を加速させる「データガバナンス」設計
データ活用を全社に広げる際には、機密情報や個人情報の保護と現場によるデータ利用をどう両立すべきか、そのバランスが課題となる。統制を強めすぎれば利用の妨げになり、反対に権限管理が不十分であれば情報管理上のリスクが高まる。ラクスは、アクセス制御やメタデータ管理、そして事業部門との協働を組み合わせることで、この両立を図っている。
システム面では、列単位のアクセス制御・マスキングを実装し、データカタログを用いてメタデータを管理している。岩崎氏は「BigQueryが提供するポリシータグ機能を活用し、機密情報や個人情報のマスキング処理を列レベルで自動制御しています。また、Dataplexを用いたデータカタログの管理により、どこにどのようなデータが存在するのかをメタデータとして可視化し、適切な権限を持つユーザーが必要なデータへ迅速にアクセスできる環境を構築しています」と説明した。
この仕組みにより、データエンジニアが個別の抽出依頼に対応するのではなく、利用者が権限の範囲内でデータを探索・利用できるセルフサービス型の環境を整えている。
もっとも、システムを導入するだけでデータガバナンスが定着するわけではない。データ活用推進課 課長の網中翔氏は、現場の業務知識を取り込むことの重要性を指摘する。
コーポレートIT部門に属していると、すべての業務データの仕様や文脈を情シス部門だけで把握することは難しくなる。そこで、「各事業部門のなかでデータマネジメントに関心の高いキーマンを見つけ出し、実質的な『データスチュワード』として連携する体制を整備しました」と同氏は述べる。
ここでいうデータスチュワードは、現場の業務やデータの意味を深く理解し、データ品質の維持やメタデータの定義に関わる役割を指す。同社では、データスチュワードという正式な役職を設けるのではなく、現場でデータ集計や分析に携わるメンバーと対話を重ね、データ定義や品質維持に関わる実質的な担い手として連携している。
メタデータの収集にあたっては、スプレッドシートを用いて各カラムの業務上の定義や計算ロジックを現場担当者に確認し、データ辞書を更新・拡充している。網中氏は、「メタデータの更新や定義付けは、現場から見ると一見、余計な手間に映りがちです。しかし、これが後のデータ分析やAI活用においてどれほど強力な武器になるかを丁寧に説明し、信頼関係を築きながら進めてきました」と振り返る。現場とデータ定義をすり合わせる作業を続けることで、データ利用のしやすさと継続的な管理の両立を図っているのだ。
手作業の削減から管理会計の分析高度化へ
RaDAPの活用は、定常業務におけるデータ処理の効率化から始まり、管理会計を中心とした分析の高度化へと対象を広げている。稼働初期は、部門ごとに行われていたデータの取得・加工・集計を自動化することから着手。その後、経営や事業部門が必要とする分析を行いやすくするため、データ活用の高度化を随時進めている。
加えて、データ活用のプロセスも見直した。RaDAP展開前は、担当者が基幹システムから必要なデータを取得し、表計算ソフトやBIツールで加工・集計していたが、RaDAPでデータを集約・更新することで、手作業によるデータ加工の負荷を減らし、利用者が集約済みのデータをもとに判断できるようにしている。
網中氏は、「作業時間が何分短縮されたかという個別の計測以上に、現場での手作業によるデータ加工が減り、集約されたデータをもとに次のアクションを判断しやすくなったという声が多く寄せられています」と効果を説明する。
現在は、管理会計領域を中心にデータ活用の高度化を進めているところだという。管理会計では、プロダクトごとの売上推移を確認するだけでなく、「なぜその金額になったのか」「どの要因が成長を牽引したのか」といった要因を分析し、経営層への報告や事業運営に結び付けることが求められる。管理会計をはじめとする分析業務の高度化に向け、同社ではDatabricksを用いたセマンティックレイヤーの構築と、AIエージェント活用のPoCを進めている。
セマンティックレイヤーとは、複雑なデータ構造の上に、ビジネス上の概念や計算ロジックを定義する層を指す。人が分析する場合にも、LLMを介してデータを扱う場合にも、指標や業務用語の定義を共通化するための層となる。
小林氏は、その狙いを次のように説明する。
「従来のデータ分析では、分析したい人がデータ抽出担当者に要件を伝えてデータを用意してもらい、それを受け取ってから分析するという多段階のプロセスを踏んでいました。しかし、業務ロジックをセマンティックレイヤーやメタデータとして正しく定義しておくことで、分析したい人がAIエージェントを通じて直接基盤にアクセスし、瞬時に高度なセグメント分析や要因分析のアウトプットを得られるようになります」(小林氏)
先行検証では、従来はエンジニアに依頼していた詳細な切り口の分析を、自然言語での指示によって得られるかを試しているという。実運用に向けては、回答の正確性に加え、指標定義との整合性、アクセス権限、利用者が結果を検証できる仕組みも確認する必要がある。「こうした条件を確認しながら、データ準備から仮説検証までのプロセスを短縮できるかを見極めているところです」と説明する。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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