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「はやぶさ」はいかにして危機を乗り越えたのか?プロジェクトマネージャーJAXA川口教授に聞く(後編)

(後編)


2010年6月、7年という歳月を経て、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還した。数々の危機に見舞われながらも不死鳥のように甦り、ひたすら地球を目指す。その姿に多くの人々が感動し、今夏の「はやぶさ」カプセルの一般公開には、わずか数日間で10万人以上が来場し、「はやぶさ」ブームが巻き起こった。さらに、11月になってはやぶさが持ち帰った微粒子が、小惑星「イトカワ」のものであることが判明した。この世界初の偉業を統括したのが、宇宙航空研究開発機構教授の川口淳一郎氏である。壮大なドラマの舞台裏と責任者としての苦渋や喜び、今後の日本の科学技術のあり方や宇宙開発の意義についてお話を伺った。(前編はこちら)

求められるのは絶対評価尺度、揺るがない意志が難局を制す

― 宇宙開発予算に対する外部からのシビアな目や「事業仕分け」に象徴される連日のメディアの報道など、当初からすべて好意的というわけではないなか、モチベーションが下がることはなかったのでしょうか。

 ええ、まったく(笑)。メディアによって皆さんに知っていただけるのはありがたいことですが、私たちのミッションは“世界初”という誰が見ても明らかな絶対的価値をもっており、それを私たちは信じていましたから、評価される前も後もまったく取り組みの姿勢に変化はありません。科学技術という絶対評価尺度において、これほど確かでオリジナリティのある目標を疑う必要がどこにあるでしょう。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所
 宇宙航行システム研究系 教授 川口淳一郎氏
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 教授川口 淳一郎氏

 ただ、日本国内の対応については、一抹の寂しさは感じました。私たちの取り組みをニュースとして一番に取り上げるのは、いつも米国のメディアでした。日本のメディアは米国で報道されると追従して報道する。事業仕分けでも同様です。

 どうして世界一でなくてはならないのだと仕分け対象になり、帰還した途端に大騒ぎになって予算復活となりました。メディアも政治家も、自分たちの国が行なっている国家的プロジェクトに対して、何をやっているのか、どういう価値があるのか、価値・意義を判断できていない。つまり、絶対評価尺度をもっていないというわけです。そうなれば、価値観もポリシーもなく他者の反応や評価で判断が揺らぐのは当然です。

 絶対評価尺度があれば、他者からの評価に動じずに、ポリシーに基づいた判断や行動がとれるはずです。特にリーダーが揺らぐことがなければ、チームは安定し、対外的にも理解を得られるのではないでしょうか。一人の人間としてはもちろん、組織や国としての信頼にもつながっていくのではないかと思います。(次ページへ続く

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経験の機会を後進に譲り、新たに思い描く構想

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この記事の著者

伊藤真美(イトウ マミ)

フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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