クラウドを巡るOracleとSalesforce.comの争い
2010年9月、米国サンフランシスコで開催されたOracle OpenWorldで、OracleのCEO ラリー・エリソン氏は、「Salesforce.comをクラウドだと言う人もいれば、Amazon EC2をクラウドだと言う人もいる。しかしながら、双方はまったく違うものだ」と指摘した。そして、Oracleの目指すクラウドはAmazon EC2に似ていて、Amazonとの違いはパブリックだけでなくファイヤーウォールの内側にあるプライベートクラウドも対象としているところだと言った。そこで発表されたのが、「Oracle Exalogic Elastic Cloud」という名の、ミドルウェアとハードウェアを一体化した高性能マシンだった。
さらにエリソン氏は、Salesforce.comの環境について「セキュリティモデルとしては弱い」と指摘。1つのアプリケーションのダウンで、すべてのユーザーに影響が出るアーキテクチャはいかがなものかと批判したのだ。
その上で、クラウドコンピューティングに必要なのは「Elastic」であると主張。このElasticという単語、日本人には耳慣れないかもしれない。とはいえ、Amazon EC2はまさに、「Amazon Elastic Compute Cloud」の略でもある。日本語にすれば、「伸縮性」と訳すのが分かりやすいだろう。ようは、必要に応じ柔軟に拡張でき、必要がなくなれば素早く縮小できるということだ。
Oracleが主張するクラウドコンピューティングとは「仮想化技術を活用している伸縮性のあるシステム」であり「たんにインターネット上でアプリケーションを動かす」ものとは異なるという。
その一方で、エリソン氏によりやり玉に挙げられたSalesforce.com。CEOのマーク・ベニオフ氏は、2010年12月に同じくサンフランシスコで開催したDreamforce 2010の場で、この主張に真っ向から反論。
ベニオフ氏は「Oracleのように、ラックに搭載されたマシンを売るのはクラウドではない」と断言。さらに、Oracleのやり方は民主的ではないと批判したのだ。
ベニオフ氏曰く、これからのクラウドに大事なのは「ソーシャル的なアプリケーションのようにプッシュで情報が得られこと」であり、「モバイルを含めさまざまな環境に対応していること」。そしてそれらを「安価に、簡単に利用できなければならない」。その上で発表したのが、クラウド上のデータベースサービス「Database.com」だった。
クラウドコンピューティングの定義は、このように提供する製品やサービスの違いなど、立場や見方によって異なる。どちらの主張が正しく、どちらの主張が間違っているということではない。Oracle製品群を揃え伸縮性のあるプライベートクラウドを実現してもいいし、Database.comやSQL Azureなどのパブリックなクラウドサービスを活用し新たなシステムを素早く安価に実現してもいい。ある意味、現状ではクラウドコンピューティングには唯一の定義となるような確たる実体はないのかもしれない。さまざまなバリエーションがあり、自分たちがやろうとしていることに最適な方法を適宜選ぶことが、賢いクラウドコンピューティングの活用方法なのだろう。
とはいえ、この2社の主張は、クラウドコンピューティングの重要な方向性を示しているとも思える。Oracleの主張はクラウドコンピューティングを実現する技術の話であり、Salesforce.comの主張はクラウドコンピューティングで実現したいユーザーメリットの話なのだ。この2つの方向性から、クラウド時代のデータベースに求められるものは何かを考えてみたい。