書類の山に埋もれていたLincoln Trust社
「2010 InformationWeek 500 survey」によると、フォーチュン500のCIOの多くは「ビジネス・プロセスの効率を向上させること」を最優先課題に挙げているという。「企業はBPM(Business Process Management)を使用して従業員の生産性の向上や作業の合理化、主要なビジネス指標の達成などを実現したいと考えている。ビジネスの柔軟性や俊敏性を高められるような仕組みが実装できれば、EPS(一株に対して最終的な当期利益)やROI、収益の成長速度、資本収益率などを高めることにつながるからだ」(マークアード氏)。
とはいえ、BPMには課題も多い。部門をまたがった改善活動に広げていくこと、プロジェクトをまたがってBPMを活用すること、可視化を図りプロセス最適化へと導くことにはそれぞれに困難がつきまとう。
それらの課題を克服し、柔軟な業務プロセスを構築するには、顧客の事業上の挑戦と価値を認識し、利益の大きいプロジェクトをひとつ成功させることが重要だ。そこで獲得したノウハウを社内に展開する。その後、試行錯誤を重ねてBPMプロジェクトを最適化し、プログラムとして定着化させる。最終的には、企業横断的な最適化を実現するトランスフォーメーション効果を意図的に創出していくというロードマップが必要だとマークアード氏は言う。
米コロラド州デンバーで信託業務、管理業務を手がける大手独立系企業Lincoln Trust社は、BPMによってビジネスニーズへのスピーディな対応を可能にした好例だ。
個人が保有する伝統的資産・代替資産や、企業の退職金口座を管理するLincoln Trust社には毎月10万件を超える顧客からの要求が寄せられる。問題は、業務フローの中に紙ベースでの処理が存在していたことだ。「書類を格納するキャビネットの重みにより床が抜けたこともあった」という大量の紙が業務の効率性を低下させていた。
Lincoln Trust社は紙に依存したプロセスを改善するため、過去に2度ほどプロジェクトを立ち上げたことがあったが、いずれも失敗に終わっている。最初のプロジェクトではプロセスのモデリングに時間がかかってしまい、プロセスを自動化するところまで至らなかった。また2回目の挑戦ではワークフローの自動化を目指してツール導入を試みたが、やはり上手く行かなかった。いずれも、失敗の原因はIT部門と業務部門のコラボレーション不足にあったとマークアード氏は分析する。
145あったプロセスを15に削減し、生産性を大幅向上
そんな同社が3度目のプロセス改革に着手したきっかけは、分社化と組織再編だった。従来と同じ業務量を1/4の人員で処理しなければならなくなった同社は、日を追うごとに低下する顧客満足度を回復するために再チャレンジを余儀なくされたのである。
まず、Lincoln Trust社が行ったのは基幹業務とIT部門幹部社員からなる合同運営委員会の設置だった。次に、小規模なBPMチームを編成、2つの戦略を立案し、本格的にプロセス改善に着手した。その後、2つの戦略を実行に移した。
第一の戦略は、すでに発生している主要な課題に迅速に対応すること。まずは、コンテンツ管理ツールを使用して、書類をイメージ処理したり、自動化したりするための共通の共有プロセスを構築した。また、同社が持つ145もの業務プロセスを検証し、可能な限り、物理的な書類を除去する処置を行った。
第二の戦略は、完全なビジネス・プロセス構築に向けて業務部門主導の自動化を進めることだった。IBMのモデリングツールを使用し、現状のビジネスプロセスと将来の理想的なモデルを業務チームが作成。そのデータを基にITチームがサービス要求、計画立案、ディストリビューションなどを行い、15のプロセスに対して自動化されたワークフローを実装した。
2つの戦略を実行に移した結果、1年でROIが120%向上した。最近は300%に迫ることもあるという。サイクルタイムについても、これまで平均で3週間かかっていた処理時間を50~75%短縮。顧客満足度を90%向上させることにも成功した。
マークアード氏によれば、Lincoln Trust社のBPMがうまくいった要因は3つある。「第一に業務部門とIT部門が協力し、業務部門が先導役として作業を進めたこと。第二にビジネス・バリューを重視したこと。第三に初期の段階から過度なプロセス分析を行わなかったことだ」(マークアード氏)。